- 2013.11.22
- 書評
『アンダー・ザ・ドーム』解説
文:吉野 仁 (文芸評論家)
『アンダー・ザ・ドーム』 (スティーヴン・キング 著 白石朗 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
さらにキングは子どものころ、第二次大戦中の勇敢な飛行機乗りのシリーズを書いた作家デイブ・ドーソンに夢中だったという。ならば、実際の飛行機乗りにもあこがれていたのかもしれない。ところが物語の皮切りで、飛行訓練途中の飛行機が〈ドーム〉に破壊されてしまう。ちなみに飛行訓練を指導する男の名はトンプスンだった。
そして同じく冒頭では、パルプ材トラックが〈ドーム〉に激突し、炎上する場面が描かれている。パルプという言葉から、「ウィアード・テールズ」「アメージング・ストーリーズ」「ブラック・マスク」などに代表されるパルプ誌を連想させられるではないか。戦後に量産されたペーパーバック・オリジナルの小説がパルプ・フィクションと呼ばれることもあった。
すなわち、〈ドーム〉の出現は、キングが子どもの頃から熱愛したあこがれの存在をことごとく断ち切り破壊しているのだ。そう解釈できる。まさに権威的で暴力的な父性の行為だ。そこはジム・トンプスンの描く神なき暗黒世界となってしまった。
こうした深読みがどこまで妥当なのか、それとも牽強付会で意味のないこじつけにすぎないのかは分からない。だが、アメリカの田舎町に起きた異常な物語を世界中の読者が興奮して読む裏には、あらゆる人間の感性を刺激し、この世の複雑な理(ことわり)に通じる普遍的な要素が書き込まれているからなのではないだろうか。そのことだけは間違いないとわたしは思う。
およそ四十年近い作家生活を経て身につけた円熟の境地のみならず、貧困生活の中で育ち、作家として成功しながらもアル中ヤク中の経験を経て、交通事故にあい九死に一生を得たキングにしか書きえない魔力が、もしかすると本作にこめられているのかもしれない。
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