書評

『アンダー・ザ・ドーム』解説

文: 吉野 仁 (文芸評論家)

『アンダー・ザ・ドーム』 (スティーヴン・キング 著 白石朗 訳)

 では、そもそも〈ドーム〉とはなんだろうか。

 舞台になっているチェスターズミルは、スターバックスはもちろんマクドナルドさえなく、住民の大半は顔見知りという典型的な田舎の小さな町だ。加えてビッグ・ジムの独裁が進み荒廃しつつある。すでに閉鎖された土地と等しい。〈ドーム〉が出来たことで二重の壁に包まれた感じがある。文字通りの出口なしとなったのだ。

 本作は、町が少しずつ異変に包まれていくという展開ではない。いきなり飛行機や車が見えない壁にぶつかり、大破し、人々が死んでいく。いわゆる父性(男性原理)は「切ること」で母性(女性原理)は「包むこと」とされているが、あたかも目に見えないギロチンの刃が天から降ってきたかのような〈ドーム〉の出現は、まさに父性がもたらす切断力なのだろうか。その力は、ビッグ・ジムや悪徳警官の暴力性とつながっているとも考えられる。一方で〈ドーム〉は町を大きく包んでいる。二重に閉鎖された息苦しさに住民は苦しめられる。母なる故郷は、ときに閉鎖的で逃げ出したくなる土地である。町の悪を退治し、壁を壊すことが、すなわち生き残ることにつながるのだ。

 また、ある場面では、〈ドーム〉は神の意志だ、という科白があった。キングは『書くことについて』のなかで、『ザ・スタンド』(文春文庫)『デスペレーション』(新潮文庫)『グリーン・マイル』(新潮文庫)などのテーマは「神が存在するならば、なぜかくも理不尽なことが現実に起きるのかという疑問」だと明かしている。

 先に指摘したとおり〈ドーム〉は、〈ドゥーム〉を連想させられる。すなわち悪い運命、世の終わりを意味する。人間の力ではどうしようもない残酷なものの象徴ともいえる。

 そのあたり、「蟻」の章でラスティ・エヴェレットが「蟻と虫眼鏡」の逸話を語る場面が本作の重要なテーマとなっている。小学校のころ、虫眼鏡を使い、太陽の光を集めて蟻を焼き殺して面白がっていた子どもがいたのは、アメリカでも日本でも同じだろう。ラスティは、「いまはぼくたちが蟻で、あれが虫眼鏡だからさ」と語る。あれとは〈ドーム〉のこと。本作には革頭(レザーヘッド)という超越的な存在が登場するが、彼らは虫眼鏡をもった残酷な子どもなのだ。

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アンダー・ザ・ドーム 1スティーヴン・キング 白石朗訳

定価:本体810円+税発売日:2013年10月10日

アンダー・ザ・ドーム 2スティーヴン・キング 白石朗訳

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アンダー・ザ・ドーム 3スティーヴン・キング 白石朗訳

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アンダー・ザ・ドーム 4スティーヴン・キング 白石朗訳

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