書評

作家デビュー25周年。あらためて再評価されるべき、真保裕一の名作復刊。

文: 西上 心太 (文芸評論家)

『ストロボ』 (真保裕一 著)

『連鎖』には乱歩賞応募作品ということで、本格ミステリーを意識したようなトリックが用意されていたが、それ以降は先述したキャラクターを生かす、冒険小説や活劇小説の要素が強くにじみ出る作品を発表し、ぐんぐんと頭角を現していった。孤立無援の電力会社の職員が、ダムと発電所施設を占拠したテロリストに挑む『ホワイトアウト』(一九九五年)で吉川英治文学新人賞を受賞。精巧な贋札作りを目指す犯罪者たちをコミカルな要素も加味して描いた『奪取』(一九九六年)で、日本推理作家協会賞と山本周五郎賞を受賞するなどめざましい活躍ぶりだった。

 真保裕一が長編主体の作家であることは間違いないが、短編集も決して引けを取らない。『盗聴』(一九九四年)こそデビューから間もない初期の短編を集めた作品集だが、以降は一つのテーマを定めた短編で一冊をまとめるようになった。『防壁』(一九九七年)では、警視庁警護課員(SP)や海上保安庁特殊救難隊員など、身体を張って他者を守る危険と隣り合わせの職業に従事する人間を取りあげ、『トライアル』(一九九八年)では競馬や競輪など公営ギャンブルの世界でしのぎを削る選手たちを描いてみせた。また新田次郎文学賞を受賞した『灰色の北壁』(二〇〇五年)は、迫力ある登山シーンが魅力の山岳小説集という具合である。

 その中でも本書は異色作といえるだろう。それぞれが独立した短編でありながら一つの長編にもなるという、ふつうは連作短編集と呼ばれるのであろうが、そう言ってしまうと本質から外れるような、一風変わった作品集なのだ。

 何が変わっているかは目次を見れば一目瞭然だろう。第五章から始まり最終章が第一章となっているではないか。しかも主人公である喜多川光司(本名・北川浩二)の年齢が五十歳から二十二歳にまでさかのぼっている。本書はプロカメラマンの半生を、撮り終えたフィルムのように、巻き戻していくという形式の短編集なのだ。これら五編は「小説新潮」一九九八年七月号から二〇〇〇年二月号まで五回にわたって掲載された後、二〇〇〇年四月に新潮社から刊行された。

 第五章「遺影」の喜多川は五十歳。喜多川はスタジオビルを所有し、スタッフ七名も抱える大御所である。しかしすでに周囲からは盛りを過ぎたと思われている。喜多川自身もスタジオを維持するため、金にはなるが撮りたくもない写真ばかり撮っている。そんなおり若い女性から、病床に伏す母親の遺影用の写真を撮って欲しいという依頼を受ける。母親自身の要望だという。聞けば母親がモデルだったころ、一度だけ喜多川に写真を撮ってもらったという。喜多川は依頼を受けたものの、死ぬにはまだ若すぎる依頼主の決意や無念など「誰にでも感じられるものをありのままに撮す腕すら、自分は持っていなかったらしい」と嘆くほど、被写体と対峙して瞬間を切り取る、カメラマンにとってもっとも必要な気概の衰えに気づき愕然とする。

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ストロボ真保裕一

定価:本体740円+税発売日:2016年07月08日


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