書評

作家デビュー25周年。あらためて再評価されるべき、真保裕一の名作復刊。

文: 西上 心太 (文芸評論家)

『ストロボ』 (真保裕一 著)

 第四章「暗室」の喜多川は四十二歳で、時代はバブル崩壊前夜だ。すでに喜多川は四年前にスタジオビルを購入し、守りの姿勢に入りかけている。ローン返済のため、硬派のテーマには近づかず、割のよい広告仕事を優先するようになったのだ。そんなおり、短い間だがアシスタントを務め、身体の関係もあった女性カメラマンが加わった登山パーティが、マナスルで遭難したというニュースが流れる。自分に貼られた美貌のカメラマンというレッテルに抗うかのように、彼女は危険な現場での撮影にのめり込んでいたのだ。やがてパーティの中心は背後にスポンサーがついた彼女自身であり、彼女の登山経験の少なさが遭難に結びついたのではないか、という週刊誌の記事が出る。そんなおりに遺品のフィルムが発見される。はたしてそのフィルムに映っていたものは……。

 第三章「ストロボ」の喜多川は、三十七歳。フリーカメラマンとして十年のキャリアを持っている。売れっ子になった喜多川は、好きな仕事へ向き合う余力を生みだすためという口実で、ギャラのよい広告写真の仕事を重視するようになっていく。私生活でも、妻が待つ家にほとんど帰ることなく、モデルとの火遊びにうつつを抜かしていたが、その様子を何者かに撮影されてしまう。そんなおり、かつてアシスタントを務めた師匠格のカメラマンと再会する。売れっ子だった元師匠はすっかり落ちぶれていた。だが最近の喜多川の姿勢に批判的なアシスタントの視線が、かつて自分が師匠に注いだそれと同じであることに気づくのだった。

 第二章「一瞬」の喜多川は三十一歳。大手出版社の契約カメラマン時代の五年前を回想する。二十六歳の北川は、一歳年上の契約ライター桜井美佐子と組むことになった。二人は恋仲になったものの、彼女から北川の写真はテクニックに走りすぎた中身の乏しいものだと批判される。北川は故郷に帰ったおりに、難病で入院中の若い女性の撮影を頼まれる。だが彼女のその姿を見た北川は動揺し、たじろいでしまう。しかもプロにあるまじきことに、ろくな写真が撮れず激しいショックを受ける。さらに心の内で侮っていたベテラン社員カメラマンが大きな賞を受賞し、フリーになると知ったことも追い打ちとなり、自分を見失いかける。紆余曲折のすえ、ようやく自分を取り戻した北川は、難病の女性を被写体に、プロカメラマンとして恥ずかしくない渾身の一枚を撮影しようと心を決める。

 第一章「卒業写真」の北川は二十二歳。学園紛争が吹き荒れる時代。まともな授業がなく、政治にも興味がない北川は、経験を積むためスタジオマンのアルバイトに励んでいた。ある日、級友の親から息子の遺品として愛用のカメラが届く。級友は北川が知らぬ間に事故死していたのだ。級友は写真を捨て学生運動にのめり込み、恋人とも別れ自暴自棄の生活に陥っていたという。いったい彼に何が起きたのか。北川は級友の別れた恋人とともに、彼の故郷に赴くのだった。

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ストロボ真保裕一

定価:本体740円+税発売日:2016年07月08日


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