そんな折、古くからの友人が趣味で小説を書いており、文学賞にも応募していることを知った。彼から、作品に対する感想を求められたことがきっかけで、小説のテーマや登場人物の立て方、個々の場面の描写などについて意見を交換するようになった。
おかげで、これまで縁遠かった「小説」という世界が、少しずつ身近に感じられるようになった。
ある時「実は飛行機に纏わる小説のネタがあるのだが……」と告げたところ、「きちんとした文章でなくとも、メモでもいいから、書けるところから手をつけてみたらどうか」との一言。
このアドバイスがきっかけで取り組むことになったのが、本書「推定脅威」である。
話の舞台となるのは、航空機メーカーと航空自衛隊。内容は、自衛隊機の墜落事故に隠された謎を、技術者やパイロットが協力しながら解き明かしていく、というものだ。
まず、準主役とも言うべき飛行機、TF-1の大まかなスペックを設定した。次いで作中で起こるアクシデントを考えたが、この部分は、航空機の設計に関わった者にしか描けない内容にしたかった。
そして、ストーリー上重要な事柄を発生する順に書き出し、さらに登場人物の設定を行い……と、外堀は徐々に埋まったが、肝心な本文の最初の一行がなかなか書けない。
なんとか導入部分、冒頭の事故のくだりを数枚書いて、友人に手渡したところ、「インパクトがある。早く続きが読みたい」との感想。なんとなく激励されているような気になり、微速ながら原稿を重ねることに……結局、1年近くかけてようやく最後までたどりついた。
ところが改めて読み直すと、小説の体をなしていない部分や、航空用語が分かりづらい箇所がいくつもあり、表現を工夫する必要があった。さらに尖閣問題など、実際に深刻な事が起こってしまったので、クライマックスシーンを現実に即したものに変更する必要を感じ、手直しに労力を費やすこととなった。
執筆開始から約2年、ようやく納得のいくものができた。腕試しのつもりで松本清張賞に応募したのだが、受賞はまさに青天の霹靂……ほんとうに「人生何が起こるかわからない!」。
最後に、本書では迷った末、若い女性技術者を主人公にした。最初は未熟な彼女が、一連の出来事を経験しながら成長する。その姿を追うことで、読者も航空機への興味と理解が深まることを願っている。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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