書評

現代日本への問題提起の書

文: 杉原 志啓 (音楽評論家)

『天皇論――象徴天皇制度と日本の来歴』 (坂本多加雄 著)

 たとえばまた、明治国家の立憲主義は「『公議輿論』を指向する正統性観念に立ちながら、同時に、『勅命』という天皇の権威に立脚する正統性観念それ自身を何ら否定するものではなかった」のであり、この合流点に明治天皇の「五箇条の御誓文」があって、しかもこれは昭和天皇の「人間宣言」でも踏襲されている。すなわち、天皇のもとにある政治空間を歴史的に継承してきたそのことに日本独自の民主主義の「物語」があって、この「来歴」の継続性に基づいてわれわれの「国家のあり方」を考えていかなければならないというのである。

 それだからこの本でもっと重要なところは、「天皇制度」を規定する憲法のような根本的法規範を論ずるには、そもそも「国家」とは何かという問題や「国家のあり方」を歴史的に探究する「来歴」論が必要ということになる。それでまた、これが総じて理論的な解釈以上に今日の実践的政治課題と密接に関わる「問題提起」の論調となっているのはいうまでもない。

 そういえば、この書初出の翌年、坂本はある方面の敵意の的になることを承知のうえで、「新しい歴史教科書をつくる会」の理事に就任。書斎の人とみられていたかれが、そのことで当時論壇に波紋を投げかけたことを記憶する方も多いだろう。

 あらためて考えてみれば、そこに帰着する道筋――つまり、その学問と行動を合致させようとした実践的思想家としての坂本の姿勢は、この「天皇論」全編においても横溢しているとおもわれてならない。

 およそ憲法学者からは出てこないそうした「国家」論を前提とする「天皇論」はもとより、憲法における戦後平和主義の幻想、戦争責任や戦後賠償に関するドイツとの比較の誤り、あるいは今日只今の中国朝鮮問題をめぐるさまざまなトラブルを予見するかのごときかれの原理的・実践的な「問題提起」の数々はひとつも古びていないと改めてわたしはおもうのである。

天皇論
坂本多加雄・著

定価:1,340円+税 発売日:2014年04月21日

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