- 2016.12.27
- コラム・エッセイ
バンドが亡びそうで亡びないとき 円堂都司昭
円堂 都司昭
『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著)
ビートルズ、カルチャー・クラブ、T・レックス、おニャン子クラブにSMAP……古今東西191、一世を風靡した人気バンドの解散理由を全暴露、音楽ファン悶絶の名著が文庫に。刊行を記念して、各著者による文庫未収録のコラムを5日間連続で公開します!
主要メンバーが抜けたんだからもう終わりだな、とファンが思っても、バンドというものはなかなか解散しない。往生際が悪い。メンバー交代を繰り返し、臨終のときを必死に先送りする。プログレッシブロックやハードロックはその典型であり、ジャンル内で個々のプレイヤーが複数のバンドを行き来するのが当たり前。流浪のドラマー、コージー・パウエルなど死ぬまでにいくつのバンドに所属したのか、数えるのも面倒くさい。プログレ村、ハードロック村という互助的な共同体全体が解散しない限り、その中のバンドは解散せずにすむといっても過言ではない。
ただし、プログレにはジャンル自体が死んでしまいそうな時期があった。70年代後半のパンク・ロック勃興から80年代前半のニューウェーブ隆盛という新世代登場の時期には、旧世代のプログレは過去の遺物として葬られようとした。だが、テクノポップのジャンルでヒットを出していたバグルズをまるごと吸収合併したイエス、トーキング・ヘッズへの客演でニューウェーブ・ギタリストと認知されていたエイドリアン・ブリューを加入させたキング・クリムゾンなど、旧世代側は後続世代の取り込みに動いた。若い血を吸うことで延命を図ったのである。そして、バグルズのジェフ・ダウンズやブリューはニューウェーブ村の住民だったはずなのに、今ではすっかりプログレ村民になっている。プログレは、ゾンビみたいに感染するのだ。
しかし、メンバー交代は、いつも成功するわけではない。特に、カリスマ的人気を持ち音楽面のリーダーでもあったボーカリストがいなくなった場合、バンドの傷跡は大きい。その危機を乗り切った好例を洋楽から探すなら、まずジェネシスが思い浮かぶ。彼らの場合、ピーター・ガブリエルが脱退したときにドラムのフィル・コリンズをボーカルにコンバートする社内人事を行った。また、ギタリストが脱退してもメンバーを補充せず、最初は5人だったバンドが3人になった。けれど、そうなってからの方が商業的に成功したのだ。もともとコリンズの声質はガブリエルに近く、交代に違和感はなかった。コリンズには作曲能力もあった。さらに、正規メンバーが減った分をサポート・ミュージシャンで済ませたのがよかった。大人数のバンドの場合、ギターとキーボードで同等の見せ場を作らないと人間関係がうまくいかない、などの問題が生じがち。そのせいで、この曲調にこの楽器のソロはいらないのにと思わせる冗漫なアレンジになったりする(例:イエス)。しかし、派遣社員的な非正規メンバーなら、どの程度仕事させるか、いつ首切るかはリーダー次第。だから、ジェネシスはプログレからポップバンドに脱皮できた。
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