- 2016.12.29
- コラム・エッセイ
「終幕」を迎えたので「沈黙」して「解体」します 成松哲
成松 哲
『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
ビートルズ、カルチャー・クラブ、T・レックス、おニャン子クラブにSMAP……古今東西191、一世を風靡した人気バンドの解散理由を全暴露、音楽ファン悶絶の名著が文庫に。刊行を記念して、各著者による文庫未収録のコラムを5日間連続で公開します!
「解散しておけば、解散コンサートをやって(中略)もっと儲かった」
ZIGGY・森重樹一が語るとおり、解散はバンドやグループにとって最後のビジネスチャンス。それだけに、ポップミュージックやロックが大きなビジネスになり始めた80年代以降、国内のバンド・グループの中には、解散ツアーを開催したり、その模様を収録したライブアルバムや解散記念ベスト盤をリリースしたりするだけでは飽きたらず、「解散」という行為そのものを独特の言い回しで演出するものも少なくない。
本書で取り上げたバンド・グループの中でもその最たる例といえばYMOだろう。83年の解散劇を「散開」と表し、翌年には、ラストツアーの模様を収録したライブアルバム『アフター・サーヴィス』をリリース。83年12月の日本武道館での最終公演の映像を使って映画『プロパガンダ』として公開している。
88年に「解隊」したシブがき隊、94年に「終了」したTM NETWORK、また00年に「終幕」したLUNA SEAも大規模なラストコンサートを開催し、解散前後にはそのライブアルバムやライブビデオ、ベストアルバム、写真集などを発表している。ラストコンサートこそ行っていないが、95年1月1日に「沈黙」したaccessの浅倉大介と貴水博之は、3月10日、仲良くソロ活動始動を宣言。同年中にライブアルバムやアーティストブック、ドキュメント小説を発売し、「沈黙」からソロ転向までの流れをイベント化した。
活動内容やその性格によって、解散を指すネーミングに一定の傾向が見られるのも、言い回しに凝るバンド・グループの特徴のひとつ。
野猿と羞恥心は、ともに解散(音楽活動の休止)を撮影現場を引き払うことを意味する「撤収」と表現した。いずれもテレビ番組の一企画として結成されたグループだからこその言い回しだ。
前出のシブがき隊は異なるが、いわゆるアイドルやテレビに積極的に露出する芸能ユニット的なグループは、そのグループを主体とした表現ではなく、メンバーにフォーカスを当てたフレーズを使いがちだ。たとえば、一世風靡セピアは自身の解散を「卒団」(卒男)、ラッツ&スター、光GENJI、制服向上委員会は「卒業」と称している。
これら“卒業”声明は、メンバーが笑顔で歌い踊ったり、若々しさや親しみやすさをアピールしたりするアイドル・タレントだった季節が終わりを迎えたことを意味すると同時に、Column 02で栗原裕一郎氏が指摘するとおり、解散=メンバーの引退ではなく、あくまでグループを卒業しただけ。学生・生徒が卒業後、進学したり、就職したりするように、メンバーも解散後にはそれぞれ新たな芸能活動を繰り広げていくという意思表示でもあるのだろう。