- 2016.12.27
- コラム・エッセイ
バンドが亡びそうで亡びないとき 円堂都司昭
円堂 都司昭
『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著)
一方、ピンク・フロイドは、シド・バレット脱退でデヴィッド・ギルモアを加入させたが、それはフロントマンの交代というわけではなかった。従来バレットが担当していたリードボーカルをベースのロジャー・ウォーターズとギルモアが分け合い、しかもコーラスを多用。そのうえアルバム構成でインストゥルメンタルの比率を高め、バンドが特定個人の歌声に依存する度合いを低下させた。そうすることで初期のサイケデリックポップからプログレ化し、従来とは異なる人気を得た。
プログレの外まで話を広げれば、ジョイ・ディヴィジョンもまた、初期のリーダーが去った後に音楽性を変化させ、バンドを持続できた一例である。彼らの場合、イアン・カーティスの自殺後に他のメンバーがバンド名をニュー・オーダーに変え、テクノ路線に転換してうまくいったのだった。
しかし、カリスマ的リーダーが去った後、社内人事でなんとかしようとして自分たちの凡庸さをさらけ出したバンドもある。ジム・モリソン亡き後に3人組になったドアーズ、ルー・リード脱退後に中途加入だったダグ・ユールが率いたヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、いずれも長続きしなかった。
ドアーズの残党はその失敗の反動か、後に故モリソンが残していた詩の朗読の録音に音楽をつけバンド名義で発表した。そのような死者との共演による新録音はビートルズ、クイーンなども行っている。加えてクイーンの残党は、スクリーンに生前のフレディ・マーキュリーを映し、彼の歌の録音も流すことで死者とライブ共演した。クイーンのロジャー・テイラーと共作シングルを出したことのあるYOSHIKIも、X JAPANの再結成ライブにおいて3Dホログラムで復活したHIDEと共演していた。
とはいえ、死者との共演はできる内容に限りがある。やはり生者の方が使い勝手はいいわけで、だったら前任者とそっくりにやれる人間を探そうという安易な考えも出てくる。ジューダス・プリースト、ジャーニー、イエスなどは人気ボーカリストの離脱に伴い、それぞれのバンドの曲をカバーしていた手頃な素人バンドの人材を加えることでピンチをしのいでいた。ジャーニーとイエスの場合、ユーチューブで適材を見つけたのだから便利な世の中になったものだ。
さらに、もっと賢いバンド経営法を考えると、キッスとクラフトワークに行きつく。キッスというとメイクで知られており、70年代に猫面ドラマーが脱退した後には狐面ドラマーが加入した。人が代わればメイクも変えていたのだ。ところが、素顔で活動した時期を経て、またメイクしたバンドへと回帰して以降は、メンバーが交代してもメイクのほうはオリジナルのパターンを引き継いでいる。メンバーの実体が誰かより、お約束のメイクをしていることの方が大事だと判断したわけだ。一方、クラフトワークの方は、4体のロボットが演奏している、といったビジュアルイメージを打ち出している。ライブでは、「ロボット」という曲でメンバーが退場しステージ上で4体のロボットがカクカク動くだけの演出もされている。メンバー交代はあったにしても、ロボット風のビジュアルさえ維持されれば細部はどうでもいいのだ、はっきりいって。
現在、キッスは2人、クラフトワークはひとりだけオリジナルメンバーが残っており、バンドを仕切っている。だが、彼らとそこそこ声の似ている人材があれらのビジュアルを継承してくれるならば、看板だけを貸してバンドを創設した本人たちが黒幕に回ることだって可能だろう。これ以上、頭のいいバンド経営法があるだろうか? そのときに維持されるバンドの“本質”とはなんなのか、よくわからないけれども。
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