- 2015.12.17
- 書評
なぜ坂本龍馬は「会計もっとも大事なり」と言っていたのか
文:柳澤 義一 (日本公認会計士協会東京会 会長)
『会計士は見た!』 (前川修満 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
「数字が泣いているね」
これは私たち会計士が、日々決算書と向き合う中で、経営者にとって不都合な数字と出会ったときに、よく使う言葉です。
経営の行き詰まりや、無理な事業展開など、何か大きな問題を抱えた企業は、必ず決算書にその実情が滲み出てきます。
企業の決算書を読んでいると、ときに経営の失敗を示す数字が、まるで「私に気付いて!」とばかりに、悲痛な声をあげているように思えることがあります。
会計士にとって大事なのは、そうした「数字の声」を聞き逃さないことです。
それは、多くの経営者にとっては目を背けたくなる数字かもしれませんが、実はその中にこそ、会社の「本当の姿」が隠れているものなのです。
前川修満さんの『会計士は見た!』でも、決算書に潜む「数字の声」にじっくりと耳を澄ませることで、非常に鋭い企業分析が行われています。
なによりこの本が面白いのは、一見冷たい印象のある数字の羅列から、血の通った経営者の性格や思考、戦略までをも見抜き、それをわかりやすく解き明かしていることです。
たとえば、社長の座を巡る父と娘の対立が「親子喧嘩」などと報じられた大塚家具について、本書は、騒動の本質は「在庫数」「平均年間給与」「従業員数」の推移にあると指摘しています。
父親の勝久氏が創業し、一代で繁栄した大塚家具ですが、その売上高は、2000年代に入ってから徐々に落ち込んでいました。その経営の悪化が、今回の内紛劇の裏にあった、そもそもの背景です。
2008年に遂に赤字を出してしまった勝久氏は、その直後、娘の久美子氏に社長の座を明け渡します。しかし、その後2014年に勝久氏が再び社長に就任したと思ったら、その半年後にはまた久美子氏が返り咲く、といった、目まぐるしい社長交代劇が行われたのです。
その中で親子は激しく対立し、勝久氏は記者会見の席で実の娘に向かって、「彼女を社長にすべきではなかった」と発言するまでに至ったのです。
本書では、この騒動の舞台裏を、決算書から鮮やかに読み解いています。
そもそも、なぜ親子はここまで対立してしまったのでしょうか。
本書がまず注目しているのは、従業員数の推移です。勝久氏が社長だった時代を見てみると、売上高は年を追うごとに徐々に減っているにも関わらず、従業員数は全く減っていなかったのです。また、平均年間給与を見てみても、勝久氏はその間、賃下げも行なっていませんでした。
普通、業績が悪化している会社というのは、従業員の数を減らしたり、または給料を切り下げたりして、経営をなんとか安定化させようとするものです。しかし、勝久氏は、どんなに会社が苦しいときでも、決して社員の首を切らず、給料も下げなかったのです。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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