『鬼平犯科帳』の中でも特に人気の登場人物が、女密偵のおまさだ。少女の頃、若き日の長谷川平蔵にひそかに思いを寄せ、のちに平蔵の密偵となる。アニメ『鬼平』で、そんなおまさの声を演じるのが、少年役から大人の女性まで幅広い役を演じて人気を誇る、実力派声優の朴璐美だ。
おまさの魅力はなんといってもその強さです。元盗賊の娘であり、盗賊の元で引きこみをしていたけれど、長谷川平蔵が火付盗賊改方の長官に就任したと知って、自らその密偵となった。そんな彼女ですから、いろんな過去をもっていますし、密偵として命がけで働くなかで女性として辛い目にも遭います。それでも自分を救ってくれた平蔵には命を賭けて忠義を尽くす。その姿に、どんなに踏みつけられようが太陽の光が降り注ぐかぎり絶対に上に伸びていく、そんな雑草のような強さを感じます。ソウルを曲げないところが彼女の素敵なところですよね。
アニメ版のおまさの絵を見たときは、その目線と前髪に、彼女の揺るぎなさを感じました。綺麗なだけではなく、美しさの中に芯があって、すぐに彼女のことが好きになりました。私は不器用なタイプなので、気持ちがついてこないと台詞が出てこないんです。今回も、おまさという女性がどんなことを考えて行動しているのか、一生懸命考えながら演じています。少女の頃の恋心を秘めながら、密偵として働いている大人の女、という難しい役どころではありますが、やりがいを感じています。
すでにパイロット版を収録したのですが、とても楽しかったですね。私は、現代劇よりも時代ものを演じるほうが好きなんです。時代ものには、現代ものでは出せない、抑圧された者の魅力があります。特に、女性は男性以上に抑圧された状況に置かれているので、時に綻びが出てきてしまうけれど、だからこそ強さも際立つ。平蔵は、そんな人間の弱さと強さの両方をわかっているからこそ、おまさに全幅の信頼を寄せているんですね。
多くを語らず粋な会話
『鬼平犯科帳』は原作ファンがたくさんいらっしゃいますし、実写版も人気です。梶芽衣子さんがおまさを演じていて、そのイメージが強い方も多いと思います。私は梶さんが大好きで、舞台女優として以前からとても憧れていたんです。ですから、梶さんも演じたおまさという役に出会えて嬉しいですし、大切に演じていきたいです。
平蔵を演じる堀内賢雄さんとはいろんな作品でご一緒させていただいていますが、今回の気合の入りようは半端じゃないなと感じました。長谷川平蔵は、あれはずるい男ですね。あんな男性が目の前にいたら、そりゃあ惚れますよ(笑)。男らしさがありながら、それを前に出しすぎない。おまさへの優しい心配りもありつつ、それを本人の前では見せない……。本当に、心憎いです。
プロデューサーの丸山(正雄)さんからは、今回の作品は抑えた芝居をしてくれ、と言われました。おまさは大人の女性ですし、『鬼平犯科帳』という作品が持つ品を損なわせたくない。そこは、鬼平ファンを裏切らない芝居ができたのではないかと思います。
この作品は、会話劇でもあります。キャラクターたちは決して多くを語るわけではないのですが、会話が粋で、侘びさびがあり、そしてひたすら渋い。アニメとしてはとてもチャレンジングな作品だと思います。ですから、鬼平ファンはもちろん、あまり鬼平を知らない若い人にもぜひ見ていただきたいですね。
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