時代劇ファンを魅了し続けている役者が語る松竹京都撮影所での日々と作品の魅力とは――。
若村麻由美は二夜連続『鬼平犯科帳THE FINAL』の前編「五年目の客」で三度目のシリーズ出演となるが、メインゲストでの登場は今回が初めてとなる。
「本当に光栄です。『鬼平』はテレビ時代劇の金字塔ですから、その締めくくりに呼んでいただけるなんて、こんなにありがたいことはないです。
自分が参加させていただく前から『拝見する時代劇』という感覚がありましたから、撮影現場で梶芽衣子さんとお会いしても『あ、テレビで見たことのあるおまささんだ』という感覚が抜けなくて。もちろん梶さんとは違う作品でもご一緒させていただいているんですけれども、やはり『おまささん』として現場にいらっしゃるのを見ますと、『うわ、本物だ』という、素人みたいな感覚が湧いてしまいました。
ですから、まずは参加させていただいたことに本当に感謝しております。しかも、大事な役をやらせていただけたのですから、諦めずにこの仕事を続けてきてよかったと思いました」
中村吉右衛門とは屋台で酒を酌み交わす場面があり、じっくりと二人の芝居を堪能することができる。
「演じながら大きさを感じましたね。もちろん吉右衛門さんの役者としての大きさもありますし、鬼平が人の痛みを知っている人間の温かみを感じるシーンでしたので、人間の大きさも感じることができました。
今回、初めて吉右衛門さんとは撮影中のセリフ以外でお話をさせていただきました。吉右衛門さんに『お酒を飲めるんですか?』と聞かれたので、『飲めないんです』と答えたら『僕も飲めないんです』という話で。『なんだ、二人とも飲めないんだ』ということでちょっと盛り上がりましたね」
幸せを知ってしまった女
主演作『夜桜お染』(二〇〇三年、フジテレビ)など、若村は時代劇で酒を飲む場面が多く、その際はいつも情緒を漂わせる芝居を見せてくれてきた。
「『夜桜お染』の時も毎回必ず一人酒をする場面がありましたので、お酒の飲み方はいろいろと勉強しました。
人によって飲み方が違うと思うんです。今回でいえば鬼平の飲み方と旅籠の旦那の飲み方は違うでしょうし、お染と今回演じたお吉の飲み方も違う。その人の人生や生きてきた環境が違えば、お酒への関わり方も違うから飲み方も変わってくると思っています。
勝手にそう思っているだけで、実際はどうかは分かりません。本当に飲める方からすると『飲み方なんてみんな同じ』ということになるかもしれません。ですが、自分が飲めないからこそ、『酒を飲む』ということを表現するハードルが高いので、いろいろと観察してしまうんですよね」
「五年目の客」で若村が演じるお吉は、品川の女郎から苦労して大きな旅籠の御新造に収まる。だが、今度はその過去のために苦しめられることになる――そんな役柄だ。
「本当に苦労人の哀れな女ですよね。
やっぱり人間って誰しも幸せになりたくて生きているんだと思います。小さい頃から両親が居なくて弟と別れて暮らしてきた中で、いつかは弟を引き取りたいという、それだけを念願にしながら女郎に身をやつして生きてきた女です。ところが、その弟が病になり、なんとかお医者さんに診せてやりたいという想いから、客の持っていた五十両のお金に手を付けてしまう。それに対して悔いる想いみたいなものもどこかにずっと引きずりながら生きてきたんだと思うんです。
そのおかげで弟に家を買い、飾り職ということで身を立てさせて、嫁ももらい、子どももできる。彼女も自分のことを大事に思ってくれる人とも出会う。『人の女房として暮らすことの幸せを知ってしまったんだ』というセリフがありますけれども、望みも何もない暮らしをしていた女が、初めて幸せを知った。それを知った女が、過去を知る男と会った時にどうするか。やっぱり今の幸せを守りたいですよね。
かつて自分の犯した罪の大きさがあるからこそ、それを封じ込めたい。そしてまた罪を犯してしまう。哀しい話です。でも、最後は『鬼平』だからこその、人の想いを汲んだ終わり方になっている。そこが時代劇の美しさだと思います」
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