- 2016.09.21
- インタビュー・対談
一度は可能性ゼロに近づいたオバマ大統領広島訪問。悲願実現の舞台裏に迫る
「本の話」編集部
『オバマへの手紙 ヒロシマ訪問秘録』 (三山秀昭 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
――3回目の訪日(2014年4月)まで間が空きましたね。2014年というと安倍政権になっていました。
そうです。12年12月の総選挙の結果、自民党が政権に復帰、安倍内閣が誕生しました。そして翌年12月に安倍首相は自らの信念として靖国神社参拝に踏み切ります。参拝に先立ち、側近の補佐官をワシントンに送り、地ならしを試みました。国務省高官は「参拝すれば日米関係に影響する」と釘を刺し、その理由として「オバマ政権のリバランス政策で日本、中国、韓国、東南アジア重視に転換している時に中国、韓国が最も嫌う靖国参拝はまずい」と解説しています。しかし、暮れも押し迫った12月25日、安倍首相は米側の意向を無視する形で参拝しました。これにはホワイトハウスが激怒、「disappointed」(失望した)と極めて強い調子の声明を発表しました。また、中国、韓国も予想通り激しく反発しました。このため、オバマ大統領の訪日は2014年4月まで待たなければならず、14年の訪日も国賓にも関わらず、ミシェル夫人は同行しませんでした。1カ月前の3月にミシェル夫人が2人の子供を連れて北京を訪問、習近平夫妻と会っているのと好対照でした。大統領も訪日後、韓国、その後中国を訪問して東アジアの融和に努めました。中国、韓国は「日本は広島、長崎の被爆を通じて戦争の被害面だけを強調し、加害部分を覆い隠そうとしている」と、大統領の被爆地訪問に不快感を隠さない状況下で、オバマ大統領の広島訪問の可能性は限りなくゼロになりました。
これを打開できたのが、2015年4月の安倍首相の米議会上下両院合同会議での日本の首相としては初めての演説でした。「希望の同盟へ」と題する演説で、かつて「熾烈に戦い合った敵は心の紐帯が結ぶ友になった」と硫黄島の日米決戦のエピソードに触れ、議場はスタンディングオベイションに包まれ、「和解の演出」としてはかなりのものでした。一方で、地道な外交努力により、日中韓も次第に軟化の兆しが見え、首脳会談も行われるようになり、ようやくオバマの広島訪問の素地が復活したのです。
このようにオバマ大統領の歴史的な被爆地・広島訪問は、単に「核」というアングルだけではなく、日米同盟関係、国際情勢、とりわけ東アジア情勢というベクトルと無関係に実現したのではないと考えています。
――お話をうかがってみると、三山さんが、裏方として、この歴史的訪問を動かしたわけですね。
いや、それは違います。この本の出版にも実は躊躇しました。「手柄話」と受け取られるのがイヤだったのです。しかし、ある人から「オバマ訪問の裏に何があったのか事実は書き残すべきだ」と言われ、書きました。
勘違いしてはならないのは、あくまで決断したのはオバマ自身、大統領に決断させた最大の功労者は亡き父J・F・ケネディ大統領の遺志を引き継ぐキャロライン・ケネディ大使、政治的に組み上げたのはジョン・ケリー国務長官と、被爆地出身の岸田文雄外相を合わせた「三人のK」です。
広島テレビによる「オバマへの手紙」は被爆者や市民とホワイトハウスを仲介しただけで、その意味、私、そして私たち広島テレビはmedium(仲介、媒介する)の複数形であるmedia(メディア)の役割の一端に関与しただけです。
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