おたくには年齢がない
五條 私は最近よくある、壊れちゃった自分は可哀相、みたいな話は大嫌いなんですよ。壊れて人を傷つけたり殺したりして、でもそれは時代の病を背負ったナーバスな人間だから、という話は受け入れられない。それに比べると、壊れてはいるけれど、暗い部分を他者に向けないという、この男の子たちの性格のよさには非常に好感が持てました。
石田 ぼくも、病理を描いて、人間の暗い部分、悪い部分、厳しい部分だけをひきだすというやり方は、あまりしたくないんです。それをやると、書く側だけが救われてしまうところがある。読む側にはいやなものを渡して、自分だけは救われて、というのはどうかなあという気がしますよ。
いまは時代的に厳しいものがありますよね。いろんなことですごく揺れて、基準というのがどこにあるのか全然分からない。でも、個としての自分を作り上げたいという気持ちは強くあると感じます。
だからこそ、世の中から少し外れた病気っぽい子が、力をあわせて何かを成し遂げていく、その成長の物語というのが好きなんです。そういうものを書いているのがいまは楽しいですし、読者とフィットしているのかもしれないですね。
五條 わたし的には、最後のほうで、あの子たちはずいぶん大人になったなあと感じましたね。最初に出てきたときというのは、二十歳過ぎているわりにはダメな男の子ばかりでしょう。それがちゃんと会社を作ってやっていくようになる。非常に成長していくんですね。
石田 そうなんですよ。「クルーク」という、いままでにない人工知能を持った不思議なソフトをつくるためにみんなで頑張る。それこそ寝食忘れる感じで打ち込んで。そうやって働いて何かを世の中に生み出していく。その過程で大人になっていったんです。一つの目標に、みなが向かってやり遂げる。
で、大事なのは、そのやり遂げたことに関して、ある種の反応が世の中から返ってくることだと思います。それを彼らはちゃんとうまく得ることができました。なおかつ「クルーク」を作っていく過程で、巨大な組織と闘わなければならなくなった。何かのために闘うという試練を乗り越えることで、だんだんしっかりしてきたなという気はするんですけどね。
五條 さっきも言いましたが、アキラはいいですね。かしずかないとかなびかないというのは、若いときの特権だと思うんですよ。その特権をフルに生かしている女の子というのは、やっぱり魅力的です。コスチュームも、基本的には陸軍ですけど、バージョンも多彩で。
石田 はい。あらゆる国の迷彩を着せたって感じがします。スイス、アメリカ。アメリカでも、ベトナム戦争から湾岸戦争まで。
ああいう女の子の戦闘シーンを書くのは楽しいですね。『エヴァンゲリオン』のような感じになりますよ。
五條 世の男は闘う女が好きですからね。
石田 ほんとに?
五條 強い女に守られるというのは、男の永遠の願望ですよ(笑)。“それが男の夢だ、この夢を達成するためならどんなことでもする”なんて、訳わかんないことを一時間くらい喋りつづける男もいるんですよ(笑)。
でも、アキラさんは女の幸せには遠いんじゃないかな。そのへん、他人事じゃなく、ほんとに気になって(笑)。
石田 やっぱりああいう子は、スターになって終わるんです。みんなが好きになる人というのは、孤独になってしまうものなんですよ。
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