- 2023.09.12
- インタビュー・対談
石田衣良が語る、シリーズが長続きする秘訣――「池袋ウエストゲートパーク」は美味しいパスタ
『神の呪われた子 池袋ウエストゲートパークXIX』(石田 衣良)
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#エンタメ・ミステリ
石田衣良さんが「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞したのは、1997年秋のこと。そして受賞作を含む単行本でデビューを果たすや人気を博し、このたびシリーズ第19弾となる『神の呪われた子』が刊行された。なぜこれほどまでの長寿シリーズとなったのか、その秘密を石田さんが語る。
シリーズの主人公は、池袋西一番街の果物屋の店番を生業とするマコト。物語はマコトのひとり語りで、彼と盟友のキングことタカシが、街で起こる様々なトラブルを解決していく。そのスタイルはいまに至るまで変わらない。
「じつは応募作を書く直前に読んだアメリカの推理作家、アンドリュー・ヴァクスの『凶手』という小説を参考にしました。余計な言葉がそぎ落とされた文体、短い断章スタイルで場面転換し、章と章の間にトランプのダイヤ、クラブ、スペードのマークが入っている。これはいいと思って、使わせてもらったんです」
短編3本、表題作となる中編1本で単行本にするという構成も1作目以来で、石田さん自身の発案だという。
「短編だけで4本だと、長編を読んだときのようなコクがないので、シリーズ化するなら最後に長めの中編を入れてパンチを出したいなと思って始めました。そうしたら1作目でうまくはまったので、それ以降そのスタイルを続けています。いい塩梅だと思いますね。
短いものと長いもので書く時にあまり違いはないけれど、長めのものはもう少し複雑に――押したり引いたりしないといけないなとは思っています。あとは、クライマックスをやや高めにする感じですね」
今回の表題作「神の呪われた子」のテーマは宗教2世。新興宗教にはまる母親に育てられる女子高生の窮地を、マコトが救おうとする。
「安倍元首相の事件のあと宗教2世が世間で注目されて、関連本を何冊か読んだんですが、これはちょっと書くべきだと思いました。親が子供に宗教を強制するのは、立派な虐待ですね。
ただ現代社会で起きていることを小説にするときは、あれこれ資料を読んでそれをつなぎ合わせて書きますが、それをもう一度、想像力で飛ばす作業が必要なんです。もう一段、鋭くしないといけない。
今回の表題作でいえば、宗教2世の女子高生はひどいアトピーなんですけど、それを単純に“過去世で呪われているから”とするのではなくて、もう一歩踏み込む――ここでは、周囲の大人の信者たちから、過去世で子供を焼き殺したからアトピーなんだ、と思いこまされているとしました。資料のままではなく、小説の中で魅力度が上がってほしい、キラッと光るものが欲しいので、そういう描き方をします」
宗教2世のほかに、本作では中国のウイスキーバブル、ストーカーまがいの過激な“推し活”、暴力をいとわない連続強盗団が取り上げられる。どれもまさにいま、世間で起きていることで、雑誌掲載の時期を考えると、どうしてこれほど早く時代の半歩先をゆく話題を小説の題材にすることができるのか、驚くばかりだ。
「“池袋用の頭”があるんですよね。たとえば、日本のヴィンテージ・ウイスキーに1本8000万とか1億の値段が付いたというニュースを目にすれば、え、なに? と思うじゃないですか。そういう話に出逢うと、あ、これ使えるなと思う。
実生活の中でアンテナを張って、日ごろからネットニュースを見たり新聞を読んだりしていて、これは面白い、と反応している。いつもネタを探している感じですね」
それにしても、シリーズ19冊×4本なので、すでに76本も書いている。アイディアが尽きることはないのだろうか。
「アイディア云々ではなくて、世界はずっと変わり続けているわけで、世界が変わるということはなにかまた新しいものが出てくるということでしょう。
実際、締め切り前にネタがなくて困ったということはないですね。なにかちょっと面白い話があったら、これで書いちゃえ、ですぐ書ける(笑)。ヘンな言い方ですけど、このシリーズのネタは“入れ食い”みたいな感じなんです。たとえば今回文庫になった『炎上フェニックス』で取り上げた“パパ活”の話は、たまたま入ったカフェで隣の席の男女の会話が聞こえてきて書いた話です。このシリーズに関しては、ネタで悩むことはない。この先も、次の1年の間に面白いことはいっぱいあるだろうなと思いますね。
こういう連作のシリーズって、面白過ぎてもいけないんですよね。面白過ぎると、そこでピークアウトしてしまうから。そして、美味しいパスタみたいなもので、煮込んだりしない。茹でたパスタをトマトソースでささっとあえて、チーズをぱらっとかけたら出来上がり、みたいなほうが、読む方もするする読めるし、面白いと思うんです。
だから、これが書きたかったテーマです、みたいなことは一切ないです。リラックスして、新しい素材をはねつけることなく取り込めばいい。いまは時代が荒れてきているので、素材としては面白いものが増えているかもしれないですね」
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