そういった女性達の中心にあるのは、当然のことながら、皇后である。
中でも、「少年のような凜々しい眉」をされていたという、皇后美子(はるこ)の人となりは、心打たれるところが多い。
小学校のときに、私たち児童が朝礼の際に歌わされた「金剛石」という歌があった。
子供だったので、全く意味も分からずにただ歌っていたわりには、子供の頭脳は柔らかいもの、今でもこの歌を全部諳んじることが出来る。
金剛石も磨かずば 珠(たま)の光は添わざらむ
人も学びてのちにこそ まことの徳はあらわるれ
時計の針の絶え間なく めぐるが如く時の間の
日陰惜しみて励みなば いかなる業(わざ)かならざらむ
という歌詞の意味が分かるようになった年頃には、せっせと勉強をする励みともなった。
先日、明治神宮に初詣に行って初めて、この歌が、昭憲皇太后の御製になるものだということを知った。
ぱっと突然のように視界に、この歌が書かれた大きな板が飛び込んできて、まるで懐かしい人にばったりと出会ったかのような、何とも言えない歓びに、動悸がうつのを覚えたほどであった。
皇后美子は、この歌にも現れるとおり、大変に謹厳なお人柄だったということであるが、同時に、お側で働く女官や小姓たちへの包み込むような優しさや、ユーモアと才気にも溢れた女性でもあった。
貴族の家に育った女性であるから、当然といえば当然のことなのだろうが、天皇が側室の女官たちに産ませた子供たちをも、わが子のように愛し慈しまれたということに、感慨深いものを覚える。
宮殿の四季折々の営みは、そこを支配する皇后の色に染められるものだと思うが、明治宮殿もまた、そのようなものだったのだろう。
章ごとに付けられている花宴や蛍、紅葉賀といった、源氏物語を髣髴とさせる小見出しの美しさと共に、各章の末尾にそっと添えられた、立ちのぼる香のくゆりのような文章が、この作品に、美しい色彩とはかない興趣を添えている。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。