授賞式の壇上から見えた、書店員の涙
石本 本屋大賞の授賞式の時の話に戻りますが、書店員は宮下さんの授賞式でのスピーチを聞いたら、涙を堪えられないですよ。僕、ついこの前も動画を見直していてまた涙ぐむという、すごいスピーチでした。あれは原稿を考えて作られていたのですか? 即興ですか?
宮下 考えてはいたんですけれど、あそこに立ってしまうと思っていたことはあまり話せなくて。バトンを渡してくださる上橋菜穂子先生のスピーチがすごくお上手でよかったんです。それを聞いていたら、私なんかがスピーチしたらブーイングなんじゃないかという気持ちで、何を話したらよいのか分からないままにステージに立ちました。
そしたら、知っている書店員さんたちがいてくれるんですよ。みんな、すごい笑顔だったり、泣いてくださっていたりしていて、なんか今思い出しても……(涙)。売れない最初の頃から応援して下さっていた書店員の方たちが泣いているんですよね。それで、この本を選んでくれた人たちが集まってくれているんだから、何を言ってもいいんだと思ってしたスピーチでした。「ありがとうございます」という気持ちでした。
石本 その後の僕らがやった二次会に来て頂いて、その時になぜか僕が乾杯の挨拶をすることになったのがこのご縁で、お会いするのはそれ以来ですね。
ここで、告白というか謝罪なんですが、こんなふうに話しているんですけれど、僕ね、『羊と鋼の森』に投票してないんですよ。
宮下 えー! 本当ですか? 信じらんなーい!
(会場爆笑)
石本 そうですよね。というのは、僕は本屋大賞の1回目から投票しているんですけれども、僕が1位投票した本というのがまだ1度も大賞を取ったことがないんです。
宮下 そうなんですか。
石本 そういう悪いジンクスを持っているので、これには取ってほしいと思ったので1位に投票するのを遠慮したんです。本当です。嘘じゃないです。
宮下 そういうお心遣いで投票されなかったってことなんですか? ありがとうございます(笑)。
石本 僕は基本的には取りそうな作品には投票しないというのが、なんとなく自分の中であるんです。特に一次投票なんかは絶対二次投票に残らないような本に投票することが多いので、一次も二次も『羊と鋼の森』には投票してなかったりするのに、こんなところでとか、二次会で乾杯の挨拶なんかしてよかったのかな~って。黙っていればいいのにね(笑)。
今回ノミネートされた作品の中で、一番大きなドラマがないですよね。誰かが死んだりということもないし、大冒険しているわけでもないですよね。
宮下 してないですよね~。私は、地味かもしれないけれど裏方というか普通に暮らしている普通の人生というのを書きたいと思っているので、どうしても派手な内容にはあんまりならないのです。
石本 奇をてらったストーリーがあるわけでもなく、静かに始まって静かに終わりますよね。この内容で大賞を取られたというのは、よほどいい作品なんですよ。波乱万丈な人生があるわけではないけれど、みんながこの作品がいいと思って、ある書店員さんが言っていたように糧になる本だと思ってもらえるというのは、この作品の持っている力だと思います。
宮下 ありがとうございます。
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