『羊と鋼の森』が1位のはずがない……。
石本 「本屋大賞に決まりましたよ」というのも担当編集者から連絡があったんですか?
宮下 そうです。電話でいきなり「宮下さん、今、コップとか持っていませんか?」って、何言ってるんだろうという感じで。「持っていません」って言ったら、「いいですか。本屋大賞の1位だったんです!」って言われたんです。その時、私は嬉しいというよりも、またこの人が喜んでくれてよかったという冷静な気持ちで「ありがとうございます」と。
でも、ちょっとおかしいんじゃないというか、1位のはずないというか……。本を読んでくださった方にはお分かり頂けるかと思うんですけれど、『羊と鋼の森』という作品はとても地味なんですよね。本屋大賞というと、もっと華のあるものがずっと受賞されてきていました。自分の作品にドラマがないから劣っているとかそういうことを言っているわけではないです。私はこういうものが好きで、こういうものを書いていくけれど、これは1位じゃないだろうという判断くらいはできるわけですよ。だから、なんかおかしいぞ、「1位の方が辞退されたんですか?」と聞くくらいほんとびっくりしました。
電話を受けたときに、ちょうど高校生の息子と彼の友達2人が自宅に遊びに来ていまして、私が「ええ?」って言ったときに、その子たちが「はっ」っとこっちを見たんです。それで「あっ、言っちゃいけないんだ」と思って、でも「おめでとうございます」「ありがとうございます」って言ったときに彼らは何か気づいたんだと思います。本屋大賞の発表が迫ってきているときでしたから。なのに、視線をふっとそらして、何事もなかったかのように普通に過ごしてくれたので、高校生にもなると気が利いて聞かなかったことにしてくれてるんだって思いました。なので、最初に本屋大賞の1位ということを知ったのはたぶん彼らだと思います。自分でも寝耳に水というか、ありえないと思ったし…。
で、夫がその日に限って仕事を途中抜けて帰ってきて、「本屋大賞だって」と報告すると、「え? 本屋大賞の何位?」「だから、大賞だって!」「え? えっ??」って夫も全く分からないような感じで、とにかくびっくりしました。
石本 一次選考のノミネートから本屋大賞が決定するまでの間に直木賞がありましたよね? その時は待ち会とかされていらしたんですか?
宮下 していました。「私が直木賞なわけないって」って言ってるのに、担当編集者がそわそわそわそわしていて、何回もトイレに行くし、「遅いな~」とか言っていて、「大丈夫。もう、いいじゃないですか」とか言っていて。
石本 その時はどちらにいらしたんですか?
宮下 受賞が決まると帝国ホテルに行かなければいけないのでその近くで待っていたんです。
石本 失礼ですが、僕なんか直木賞を当然取るべきだったと今でも思っているんですけれども、そこで直木賞を取らなかったことが本屋大賞の1位につながっていると思います。「この本に直木賞くれへんのやったら、俺らが賞やるしかないやん」っていう、おそらくそういう気持ちで、投票がぐっと伸びたと思います。
宮下 そうかもしれないですね。直木賞取らなくてよかったということだと思います。
石本 いや、そうとは言えなくて、本屋大賞が上とかそんなんじゃないですから。僕は当然直木賞を取った方がよかったと思います。
宮下 いやいや。でも、本屋大賞って一生に1回しか取れないって。
石本 そんなことないですよ。今までないだけで、何度でも取ってください(笑)。
宮下 ありがとうございます。じゃあ、じゃあ(笑)。
石本 過去の例から言いますと、一度受賞されてしまうとハードルが上がってしまって、ノミネートされても同じレベルの面白さの本ではなかなか大賞の作品を超えられないというのがあるみたいです。でも1回と決まっているわけではないので、ぜひまた受賞して頂けたらいいと思います(笑)。
宮下 そうですね。
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