書評

がん細胞を全滅させる
〈ウイルス療法〉の衝撃

文: 鳥越 俊太郎 (ジャーナリスト)

『最新型ウイルスでがんを滅ぼす』 (藤堂具紀 著)

 この本を一読してまず私の頭を横切ったのは2つの言葉だった。

「希望」
「怒り」

 日本人2人に1人はがん患者となり、3人に1人はがんで亡くなっている。これが、がん大国日本の現実である。毎日または2日に1人ぐらいの割合で著名人のがん告白やがん死がニュースで伝えられるこの頃である。

 以前と比べてがん治療最前線は少しずつ進んでいるとは言え、やはり「がん」を告知された患者にとってがんは衝撃であり、絶望だろう。私も2005年夏、大腸がんの手術をし、その後左右の肺、そして肝臓と4度に亘るがん転移手術を経験する間は、絶望とは思わなかったが、心をバットで痛打されるぐらいの衝撃はあった。

 要するにがんは依然として人類の最大の敵(エネミー・ナンバーワン)である。本書を読むうちにその敵との戦い――がん治療の地平線上に少し明るい曙光が差して来つつあるのを感じた。

「これはひょっとしてホンモノかもしれないぞ!」
 という希望を抱かせてくれる。

 がんの標準的な治療はよく知られているように3つである。

1、手術
2、抗がん剤
3、放射線

 もちろんこの他にも免疫療法とかペプチドワクチン療法など実践的に試みられている治療法はあるし、所謂民間療法と呼ばれるものもいれると数え切れないほどのがん治療法がある。しかし、いずれも決め手を欠き、先の三大治療法に次ぐ“第四の治療法”はまだ 現れていない、というのが一般の認識だと思う。

 ところが、本書を読んでわかったことはアメリカを中心にしてもうかなり以前から“第四の道”としてウイルス療法と呼ばれるがん克服の研究が行われていることだ。

 原理は簡単だ。ウイルスをがん細胞に感染させ、最終的にはがん細胞を全滅させてしまおうという発想である。

「ウイルス療法とは、増殖するウイルスを使ってがんを治す画期的な治療法です。通常のウイルスは、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまうのですが、ウイルス療法で用いるウイルスは、がん細胞だけを殺して、正常な細胞は傷つけないように改変されているのです。『遺伝子組換えによってウイルスの作用をコントロールし、がん細胞だけを殺して正常な細胞を傷つけない』――これがウイルス療法の根本的な考え方です。つまり、がん細胞だけをやっつけるウイルスを人工的につくるわけです」(本書より)

 しかもその対がん戦争に用いられるウイルスは特別なものでも何でもない。

「単純ヘルペスI型」と呼ばれるもので、私たちが体調を崩し、免疫力が下がったとき唇や口内に出来る、あのヘルペスだ。そう、あの身近にいる口唇ヘルペスの犯人、“単純ヘルペスウイルスI型”を使って人類最大の敵を叩き潰そうというのだから、へぇー?! と驚くというより笑ってしまう。

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最新型ウイルスでがんを滅ぼす
藤堂具紀・著

定価:924円(税込) 発売日:2012年08月20日

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