対がん戦争の最新兵器
しかし、説明にある通り、“単純ヘルペスウイルスI型”を使うのだが、使い方はそう単純ではない。本書によればこの手のウイルスには80以上の遺伝子がある。その内次の3つの遺伝子を操作、つまり組替えを行うのだという。
1つめはγ(ガンマ)34.5という遺伝子。
2つめはICP6という遺伝子。
3つめはα(アルファ)47という遺伝子。
この3つの遺伝子の働きを止めることで、がん細胞だけをやっつけ、正常細胞は攻撃しない画期的なウイルスが誕生した。実は2つめまでは著者の藤堂具紀先生(東大医科学研究所教授)がアメリカで師事したジョージタウン大学のマルツーザ教授(当時)らの手によって試みられていた。
問題は3つめの「α47遺伝子」だ。藤堂先生が世界で初めて「α47遺伝子」を失速させることに注目したのだが、恩師は最初このアイデアには否定的だったという。それを1年がかりでボスを説得し、ようやく「G47Δ(デルタ)」を完成させた。
これが世界が注目する対がん戦争の最新兵器である。
著者はハーバード大学助教授の地位も捨て、日本へ帰国、この「G47Δ(デルタ)」の実用化に向けて目下奮闘中である。しかし、日本の薬事行政は驚くほど遅れている。このウイルスを医療の現場で使うためには「臨床研究」と「治験」という2つのハードルを越えねばならない。
そこには資金とマンパワー(人員)が大量に必要とされているのだが、日本の現実はそれに応えてくれない。
元々は脳神経外科医として悪性脳腫瘍の患者を助けたい思いでこの道に入った藤堂先生。本の全編に日本の現実への焦燥感と怒りがこめられている。
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