――今回のエッセイ集には、5年半にわたって「西日本新聞」に連載された映画評も収録されています。映画は子どもの頃からよく観ていたのですか?
台北には通称「映画街」と呼ばれる、映画館がたくさんあるエリアがあって、ここによく行っていました。台湾のことを思い出すときには映画館がらみの風景を思い出すことが多いですね。映画を観られることはもちろん、あの場所に連れて行ってもらえること自体が嬉しかったんです。映画館の前には屋台があって、醤油で煮たタニシに唐辛子を絡めたものなんかをビニール袋にザザーっと入れてもらって、映画を観ながらそれを食べるんです。いまも映画街はありますが、昔とくらべて小奇麗になって、大人たちから「行ってはいけない」と言われていたような映画館は随分減りました。
――小説を書き続けるためには「実体験以外のインプットがどうしても必要となる」と書いていますが、東山さんの場合、それが、小説や映画、そして音楽なのですね。
僕は本を読むのが遅くて、本にもよりますが、月に3、4冊読めばいいほうなんです。このペースだと年に30~40冊くらいしか読めないので、インプットとしては足りない。だから、活字を読みたくない時は漫画を読んだり、音楽を聴くときに歌詞をきちんと読み解こうとしてみたり、映画を観たりしています。映画評の連載をしていたときは年に200本くらいは映画を観ていました。
音楽は、まず中学生の時にヘヴィー・メタルの虜になり、大人になってからはブルースやカントリーもよく聴きます。小説を書くときもシーンに合わせて音楽をかけますが、特に、ハードボイルドな場面を書くときによく聴くのはジョニー・キャッシュの曲ですね。彼の曲は、メロディーはわりとのんびりしているのに、歌詞をじっくり読んでみると、実は殺伐としたことを歌っている。そういうギャップのあるところが好きですね。
これは小説でも同じで、文体がたたえる格調のようなものがストーリーとちょっとズレている作品が好きなんです。ブコウスキーやマッカーシーはわりとぶっきらぼうな文章で、酷いことをさらりと書いていますが、そういうところに惹かれるし、僕自身、どこか影響を受けていると思います。
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