子どもの言葉には多くが含まれている。過去の経験、今の感情、そして子どもの持つ本質。それをきちんと見極め、子どもと過ごす時間を大事にしていれば、子どもに幸せにしてもらえる。それが、児童相談所で子どもを全力で守るために、親と本気で喧嘩をする原動力になる。
大切なのは、子どもの心を想像し、子どもの心に手を届かせることだ。子どもの心に手が届けば、必ずその感触は子どもにも伝わり、そして大人の本気が伝われば、子どもにとって児童相談所は生涯忘れられない場所になり、担当者は生涯子どもの心に残る人間になれる。そんな仕事が他にあるだろうか。
今現在、児童相談所で働いている人たちすべてに、その子どもから与えられる幸福を、感じて欲しいと思う。
そして、一般の方たちにも知って欲しい。私は、児童相談所の職員ではない、身近な大人に助けられた子どもにもたくさん出会って来た。
ある小学校高学年の男の子は、母の家でも祖母の家でも虐待され、母と母子の間で、彼の押し付け合いが続いていた。彼は自暴自棄になり、既に非行に走り始め、地域では問題児とされていた。もう、家には置いておけない、と児童相談所が保護した時、私は彼に、一番会いたい人は誰かを尋ねた。
すると彼は答えた。
「PTA会長」
不思議に思って私は理由を尋ねた。すると彼は答えた。
「あの人だけ、毎朝笑顔で挨拶してくれた」
口数の少ない彼が、その時だけは、顔を上げてはっきりと答えた。その子にとって、それだけが救いだったのだ。そんなことに、子どもは救われ、支えられる。
子どもというのは、可愛がられた分だけ、可愛くなる。可愛がられた分だけ笑顔を増やしてゆく。笑っても泣いても、殴られて来た子どもは、笑顔を学べない。笑わない子どものことを、親は可愛いと思えない。だからさらに殴る。
大人同士だって同じだ。人は、優しくされた分だけ、人に優しく出来る。辛い思いをして来た子どもにたくさん出逢って来た。そして学んだ。すべては大人の責任だ。大人が、子どもにだけでなく、身近な大事な人に優しく接してあげる姿を見ることが、子どもが自分の幸せを望む第一歩となるのだ。
(「あとがき」より)
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