「スポーツ紙の世界は昭和っぽいというか、自分がいた当時は人間関係が今と違い、もっとギスギスしていたかな。今回の主人公のように影のオーナーと呼ばれる人が上司にいて、ある球団の監督人事も決めていた。社内でデスク同士が、自分が担当の日にニュース(特ダネ)を出せ、と言うことは普通にありました」
自らの経験を活かして書かれた本作は、東西スポーツの野球部が舞台。デスクの鳥飼義伸は「“とり”あえずニュースを“出せ”」が口癖で、あだ名がトリダシ。優秀な記者だが、下品な言動と強引な取材で社内外に敵も多く、部下はいつも翻弄されてしまう。
だが、著者が書きたかったのは主人公の鳥飼という人間ではなく、彼がいた世界だと言う。
「鳥飼に抜かれて悔しがったり、うらやましがったり、周りも皆同じような人間なんです。オフのストーブリーグが始まると社内が殺伐としてきて、それが苦手な記者もいたけど、そうやって社内で争うことでチームとしては強くなり、自分の新聞への忠誠心みたいなものが育ってきたりもする」
華やかな世界に憧れて入社した女性記者、縄張り意識の強いベテラン記者、プロ野球選手から記者に転身して苦労する男など7話で構成されるが、一見バラバラに見えた野球部が、物語のラストに向けて集束していく感がある。
「ニュースを抜いた時って不安なんですよ。どんなものでも100%裏付けを取っていることは珍しいので、書く前は自信を持って売り込むけど、書いてから朝まで眠れなかったりして。でも、負けるプレッシャーはもう味わいたくないけど、二度とやりたくないかというと……。球団発表とか与えられたことだけ記事にしても面白くない。トレードや新監督就任、球団買収とかどこかの新聞が一社で抜いたほうがその出来事自体にも勢いがつくんです。
昔は鬼監督が交代や二軍落ちの理由をいちいち選手に教えない。選手は不安だから『監督は何か言ってましたか』と後で電話がかかってきたりした。記者が取材しないと選手も分からないので需要があったんですね。だから取材機会が増え、食い込むから信頼関係ができ、面白いネタも取れた」
自分がいた世界を冷静に振り返ったことがなかったと言う本城さん。
「雑誌に執筆中は、今は若い人はスポーツ紙をあまり読まなくなったと言われるし、興味を持ってくれるか不安もあったけど、通して読むと自分はこの世界が好きだったなと感じます。トリダシのような上司は嫌ですが(笑)、次第に物語に入っていけました」
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