- 2015.01.29
- 書評
元メジャースカウトが見た「日本球界」の課題と『球界消滅』のリアリティ
文:小島 圭市 (元プロ野球選手、元ロサンジェルス・ドジャーススカウト)
『球界消滅』 (本城雅人 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
はじめに、私の話をさせていただいて恐縮ですが、今から二十年ほど前、アジアリーグ創設の青写真を描いたことがありました。
日本と韓国と台湾、中国など、二十チームほどで構成して新リーグを作ろうという素案を作りました。二十チームを二つのリーグに分け十チームずつで構成する。二チームは外国人だけのチームを作り、下位の二球団は入れ替えを行うなどのルール付けも行いました。台湾や韓国・中国には飛行機で三時間もあれば移動ができますので、不可能ではないと考えました。三国の中間に位置する沖縄県をメジャーリーグ球団のキャンプ地として有名なフロリダのような聖地にして、キャンプには多くの球団を沖縄県に集結させる。そうしてアジア全体で野球を盛り上げ、新しい形のリーグを形成、野球ファンを創出する。メジャーリーグに対抗できる組織を作ることを目指す。私は、そのような構想を描いていました。
本書は、私が描いていたはるか上を行く、日米を股にかけての合併問題を題材にした長編小説。机上では可能なストーリーで練り上げられ、今までにはなかった切り口でありながら、日本のプロ野球界で過去に起きた問題を日米の枠に収めたという構成も実に見事でした。さらには、野球界の仕組みをつぶさに調べられていて、私でも知らなかったこともあったほどで、登場するチーム名も現実を想起させる設定にしてあり、非常にリアリティを感じました。面白い小説は一気に読んでしまうといいますが、本書は、まさに読み応えのある作品でありました。
本書が伝えているのは、プロ野球が苦しい経営状況にあり、二〇〇四年に起きた近鉄とオリックスの合併問題は、今も例外ではないという警鐘でしょう。チーム数を多くする、少なくするという議論は常にありますが、私は、増やすべきだと考えています。なぜなら、小・中・高校の競技人口が多くあるにも関わらず、それに見合った業界構成ではないからです。チーム数を広げると野球のレベルが下がってしまうと言われますが、私は、むしろ、チーム数が少なすぎるからこそ、競争の原理が働いていないという偽らざる事実の方に目を向けます。
球団数を増やすと仮定したならば、理想とする数は二十チームくらいであると考えます。いきなり二十チームまで増やすべきとはいいませんが、年数を多くかけて、次第に増やしていくように目指すべきだと思います。日本には、社会人企業チームや独立リーグ、クラブチームというシニア組織がありますから、それも併せ、野球界全体の要人・有識者を集めて、再編を行うということが必要になるでしょう。
実は、今、日本の野球界が抱えている一番の問題はそこにあります。というのは、日本の野球界は、どこへ向かうのかのビジョンも、ディレクションもない中で行われていて、非常にファジーな感覚のままにあるということです。
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