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対談 佐々木譲×逢坂剛<br />鬼平 VS. 警察

対談 佐々木譲×逢坂剛
鬼平 VS. 警察

文:「本の話」編集部

『平蔵の首』 (逢坂剛 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

事件が先か、小説が先か

逢坂 佐々木さんの『地層捜査』に話を戻すと、新シリーズと銘打たれていましたね。主人公を水戸部にして、今後も続くんですか?

佐々木 はい。彼が捜査一課には戻らず、特命捜査対策室で再び古い事件を担当することになります。

逢坂 私が読者として気になったのが、主人公の水戸部よりコンビを組んでいた相談役の加納良一。こいつが犯人なんじゃないかと思うくらい行動も怪しいし、ちょっとワルなんでキャラが立っていますよね。この2人の関係がどう変わっていくのか、興味がありますね。

佐々木 それは困った(苦笑)。次は加納が出てこないんです。事件を管轄した四谷署で元捜査本部にいたという設定で彼はでてきたものですから……。

逢坂 そうか、今度は荒木町が舞台じゃないんだ。

佐々木 今度は代官山です(『代官山コールドケース』文藝春秋)。同潤会アパートが壊されて、大規模な再開発が行われたあとの現在のようなお洒落なイメージとは違う、15年くらい前の過去の事件です。

逢坂 もったいない! 水戸部だって非常に優秀な男ではあるんだけど、加納みたいな癖がないんだよなあ。

佐々木 主人公の性格はどうしてもニュートラルになっちゃうんですよね。

逢坂 主人公を書くのは確かに難しい。人のいい主人公というのは、書いていてもあんまり面白くないし(笑)。私と佐々木さんの愛する西部劇のリチャード・ウィドマークだって、最初に悪役をやっていた頃は、すごくキャラが立っていたけれど、人気が出て主役になったら面白くなくなっちゃったじゃない。

佐々木 そうでした。

逢坂 雰囲気があっても、みんな正義の味方になっちゃってねえ。

佐々木 リノ・ヴァンチュラだって、いい刑事になってしまいましたし、主役はそういう宿命なのかもしれません。

逢坂 まあ、新しい魅力的なキャラの登場がきっとあるんだろうね。こういう過去を調べていく警察ものは、アメリカではテレビドラマにもなっていて、『コールドケース 迷宮事件簿』は、私もよく観ていました。殺人事件に向こうは時効がないから、昔の事件もこうして取り上げられるんですね。

佐々木 時効という問題でいえば、この『地層捜査』では、時効制度がそもそもあるべきなのか、あるいは無くすべきなのか――そのことについても少し考えてみたいと思いました。結論は出していないんですが、小説の形で何らかの思考実験を試みたんです。私は警察小説の原点とも言える『ユニット』(文春文庫)を書いた時も、同じように少年犯罪を考えてみたいという思いがありました。

逢坂 自分は小説で問題提起をしようという、肩肘張ったところが、まるでないけれど、一般的には組織に綻(ほころ)びが出てきたり、問題がポツポツ出てきたりすると、よく小説に取り上げられるようになる。最近、『検事の本懐』(柚月裕子)や『司法記者』(由良秀之)といった、検察のことを書いた小説を面白く読んだんですが、検察特捜部の証拠改竄事件があって、色んなものが出てきたんでしょう。今ではすっかり定着した警察小説のブームも、1990年頃から警察の不祥事がボロボロ外に出てきたのと、ほぼ軌を一にしている気がします。

佐々木 『ユニット』を書いたのは2002年でしたが、それを取材していたときに、稲葉事件(北海道警裏金問題)のことを発覚前に聞いたんですよ。まさかと思っていたらいきなり発覚して、これが私が警察を直接素材にした小説を書こうと思ったきっかけですね。

【次ページ】警察小説の系譜

平蔵の首
逢坂剛 中一弥

定価:682円(税込)発売日:2014年09月02日

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