影を落とす9・11
人気を博す強いメッセージ
彼らが被害にあう“同時多発空巣”、ダルマがいう“(自分がひきこもっている間に)いつの間にか世界は自爆テロが交通事故のように毎日起きる場所に変わってしまいました”という言葉、彼らが口にする“アキハバラに明るいテロを”などには、まさに卑近な形で、9・11以後のきなくさい世界が反映されている。
物語的には、平和な日本に生まれ、テロや戦争など対岸の火事としか思っていない彼らが、彼らなりのレベルで“テロ”を考え、“戦争”をしかけることになる。だが“テロ”といっても、“テレビニュースみたいに悲惨な憎みあいじゃなく、おれたちらしいセンスとユーモア”をみせつけるやりかただ。
『ブルータワー』では直接的に、戦争が終わらない今、何をなすべきなのか、テロと憎悪の連鎖をなくすにはどうすればいいのかを真摯に思考していたけれど、ここではもっと不器用に優しく、しかし断固としたおたく的な姿勢で敵との戦いを考えぬく。
その行為の源にあるものは、彼らの精神的支柱ともいうべきユイの言葉だろう。“今の世界を変えるには待っているのではなく、まず自分から変わるしかない。先に変われる人間がどんどん変わっていくしかほかに方法はない”“誰かを助けることは、そのまま自分を助けることなんだ”という考えだ。これが基本だろう。
石田衣良の小説というと、若者たちの行動と風俗を軽快かつ瀟洒(しょうしゃ)に、それこそ“エッジ”をきかせて描いているといわれるが、人気を博しているのは、実はそういう強いメッセージ性にある。“言葉はコンピュータなんかとは比較にならない史上最強のシミュレーターだから、実際に世界を改変してしまうことがある”という言葉も出てくるが、それは逆にいうなら、言葉がいかに人を強く導くものであるかの証左でもある。だからこそ作者はメッセージをこめる。
もちろんメッセージとともに忘れてならないのは、キャラクター造形だろう。ちょっと歪んだ、でもそれこそが自分であり、身近な存在であると認められる人物像を作者は創造する。そこに読者はリアリティを感じる。
絵空事ではなく、いま自分たちが直面している現実を、歪みを少し誇張されたキャラクターを通してより生々しく感じ、人物たちの語るメッセージに心を動かされる。だからこそ石田衣良の小説は人気があるのだ。
『アキハバラ@DEEP』は、そんな石田衣良の人気の所以(ゆえん)をあらためて証明する恰好の作品だろう。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。