書評

解説――小説家・永瀬隼介にとって重要な節目となった一冊

文: 村上 貴史 (ミステリ書評家)

『刑事の骨』 (永瀬隼介 著)

さらに広く、深く

 永瀬隼介はなにも警察ばかりを書いているわけではない。前述したように私立探偵小説も書けば、プロレス小説も書く。『Dojo―道場』(二〇〇四年)や『わたしが愛した愚か者 Dojo―道場II』(二〇〇五年)のようにリストラされた会社員が空手道場を営む羽目になる物語も書いてきた(これもまた組織からはじき出された人間の物語だ)。そんな彼が最近手掛けているのが『帝の毒薬』『カミカゼ』(二〇一二年)といった第二次世界大戦を含む時代の流れを意識した作品だ。第二次大戦中の哈爾浜の模様を丹念に読者に紹介した上で帝銀事件を語り、さらにその後を描いていく『帝の毒薬』や、第二次大戦における神風特攻隊の一人が現代にタイムスリップしてもう一つの闘いを繰りひろげる『カミカゼ』は、ストーリーは全く異なるものではあるが、軍という組織、あるいは国という組織の一員と〝自分〟との関係を問う物語としてとらえれば、まさに永瀬隼介の小説そのものである。警察小説の書き手として永瀬隼介を知った方には、是非ともこれらの作品も読んで戴きたいものである。

 ルポライターを主人公にした『サイレント・ボーダー』で小説家としてのデビューを果たし、その後、着実に作品の幅を広げてきた永瀬隼介。『刑事の骨』は、そうした彼の作家活動において、『三日間の相棒』や現在連載中の『12月の向日葵』といった警察小説を継続しつつ、なおかつ『帝の毒薬』『カミカゼ』という新たな世界に踏み出すための重要な節目となった作品である。それに相応しい熱さと重厚さを備えた本書は、永瀬隼介が今後どれだけ活躍の幅を広げ、深めていくのかという期待を強烈にあおる。永瀬隼介のこれからに、否応なしにワクワクしてしまう。

刑事の骨
永瀬隼介・著

定価:750円+税 発売日:2013年10月10日

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