インタビューほか

苦しんだ人ほど、救いが与えられるのだと思うんです

「本の話」編集部

『ナナフシ』 (幸田真音 著)

米国系銀行や証券会社で、債券ディーラーや外国債券セールスなどを経て作家に転身。経済小説の旗手として活躍し、2014年には『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』(角川書店)で新田次郎文学賞を受賞した幸田真音さん。その最新刊『ナナフシ』は、誇りを無くした男と夢を失った少女が親子のように愛情を注ぎ合い、傷付きながらも蘇生しようとする物語だ。

――主人公の深尾は、金融市場での戦いに破れ、仕事も家族も失い、まさにドン底にいる男です。一方、ヒロインの彩弓も難病を抱え、いつ命の終わりを宣告されてもおかしくない状況に立たされています。でもこの作品の根底にあるのは辛さや苦しさではなく、むしろ人の温かさや優しさ、救いであるように思わされます。

 書いているときは本当に辛かったですよ。書いていてこんなに暗い、重苦しい気持ちになる作品はなかったくらいです。食うか食われるかの金融市場で自信も人間としての尊厳までも失い、家族すら守れなかった深尾と、若い女の子の身にはあまりに過酷な運命を背負ってしまった彩弓。どうしようもなく不幸で、とことん傷ついた二人ですよね。私も、彼らと一緒にとても苦しみました。

 でも、苦しいときって、しっかり苦しんでおくほど、救いが与えられると思うんです。苦しみから逃げてはいけない。逃げようとするとどこまでも追いかけてくる。自分の経験からもそう思います。

 深尾にとっては、彩弓の存在が救いでした。最初はなんでこんなことをしているのかと自問しながらも、彼女をなんとか生き延びさせようと、自分が必死に何かをする。そのことで自らも癒されて行く。それは、堕ちるところまで堕ちて、苦しんだ人間にしか分からないことなんですよね。

 こんな世の中だから、どんな人にも想像もしなかったことが起きる可能性があります。でも、その時は逃げずに、きちんと苦しむことに意味があるのではと思います。苦しむということは、決して悪いことだけではなくて、しっかり苦しむとしっかり救われるよ、ということが伝われば嬉しいなと思っています。

――最後に、今後のご予定を教えて下さい。

 いま、『この日のために』という新聞小説を地方紙の十紙で連載中です。1960年代の日本が一番元気だった黄金の時代。敗戦からの復興を世界へアピールする大舞台となった東京オリンピック。所得倍増計画の政治家池田勇人をはじめ、その国家事業に賭けた男たちの物語です。

 それと、女性政治家が総理大臣のポストに向けて突き進む『スケープゴート』が、4月からテレビドラマ化されるのですが、総理大臣になったあとの、続編も書きたいと思っています。

 あとは、今回『ナナフシ』を書いていて、私はやっぱり金融マーケットが好きなのだと、あらためて感じましてね。今度は、これぞ相場師という人間を主人公にした波乱万丈の物語を書きたくて、時代をいつにするかいま思案中なんです。ただ、『ナナフシ』も7年がかりでしたので、いつ実現するのかは分かりませんが(笑)。

ナナフシ
幸田真音・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2015年02月27日

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