2009.11.20 インタビューほか

我われにあの記憶を喚起する祝日

「本の話」編集部 (作家)

『ジミーの誕生日』 (猪瀬直樹 著)

我われにあの記憶を喚起する祝日

──街にクリスマスソングが流れる時期になりましたが、クリスマスイブの前日、十二月二十三日は天皇誕生日です。いっぽう、東條英機らA級戦犯が処刑されたのも、昭和二十三年の十二月二十三日です。処刑当時、現在の天皇明仁は皇太子でしたが、皇太子の誕生日にA級戦犯の処刑が執行されたのは、単なる偶然ではなかったのでしょうか?

猪瀬  年末の十二月二十三日が祝日になったのは平成元年からです。一九八九年ですね。それまでは四月二十九日が天皇誕生日でした。いまの三十歳以上のひとは天皇誕生日といえばゴールデンウィークのなかのひとつだと思っていたでしょう。ある日突然、昭和天皇が崩御し、皇太子明仁が天皇に即位して、平成の時代がはじまり、十二月二十三日が天皇誕生日として祝日になったのでした。歳暮のいそがしいとき、突然に祝日が出現してまごついた記憶が多くの人にあるのではありませんか。十二月二十三日が東條英機らA級戦犯が処刑された日だということについて思いを到らせた人は果たしてどのくらいいたでしょうか。

  極東国際軍事裁判(東京裁判)で東條英機らA級戦犯七人に絞首刑が執行されたのは昭和二十三年十二月二十三日でした。僕はこれが偶然だとは思っていません。なぜなら東京裁判でA級戦犯二十八人が起訴されたのは昭和二十一年四月二十九日でしたから。昭和天皇の誕生日です。開廷したのは五月三日です。翌昭和二十二年五月三日に新憲法が施行されました。そして皇太子明仁の誕生日に東條英機が処刑されたわけです。これをひとつの暗号として読み解くべきではないでしょうか。

──本作は、ある女性が猪瀬さんに質問の手紙を送ってくる場面から始まります。彼女は祖母が遺した日記帳をめくるうち、「ジミーの誕生日が心配です」という記述に目を留め、いったい「ジミー」とは誰なのかという質問が頭から離れなくなる。そんな彼女との対話を通じて物語がはじまり、アメリカが仕掛けた対日占領政策の大きな構図が次第に見えてくる……。

猪瀬  マッカーサーによる日本占領後、学習院にアメリカ人女性の英語教師、エリザベス・バイニング夫人が招かれました。英語で授業をはじめるにあたり、同級生全員にニックネームをつけました。アルファベット順にアダム、ビリー……、皇太子明仁はジミーと呼ばれました。したがって僕のところに寄せられた手紙のなかの祖母、子爵夫人なのですが、その日記帳に「ジミーの誕生日が心配です」と記されていた、そのジミーとは皇太子明仁を意味しています。子爵夫人はGHQ(連合国軍総司令部)のある人物と深い関係にありました。さきほど示したように、四月二十九日、五月三日、十二月二十三日と日付が果している役割というのは問題解決にあたり工程表をつくるというアメリカの手法でしょう。

ジミーの誕生日
猪瀬 直樹・著

定価:1500円(税込) 発売日:2009年11月26日

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