――八編の物語それぞれの驚くような仕掛けには圧倒されました。
木下 自分で書いていても余りにも荒唐無稽で(笑)、迷いの状態が長くて苦戦しました。ギアがかかったのは、山田風太郎さんの『魔界転生』を読んだこと。山田風太郎という作家は何もブレーキを踏むことなく自分の書きたい面白いものだけを書いている。これはすごい! 少しでも近づくためにも、自分の書きたいものを思い切って書こうという気持になりました。最初のうちはモンスターを書くことに精一杯という部分もあったのですが、「血ノ祭」を京都人の視点から書いたことで全体の方向性がはっきり見えてきました。
京都の人の独特な部分は、時間の捉え方だと思います。自分の代ではなく、孫やひ孫の代までつきあえるかが判断の基準。ある職人の方も、「自分の仕事が本当に評価されるのは三代先のことです」と言っていました。この物語を書くために、祇園祭の鉾町の古文書電子化プロジェクトにボランティアで参加したんですが、古文書の町掟からも今と変わらない京都人の時間に関する考え方などがひしひしと伝わってきました。本当に京都は特別な都。ラストの「首ノ物語」もそれに気がついてこそ書けた話です。
時代の変わり目という意味では、幕末と今の時代は似ています。特に僕が大阪にいるからかもしれませんが、大阪都構想に賛成か反対か、日々侃々諤々やっています。自分の主義主張を明確にさせないと生きにくいでしょう。「選挙で負けても殺されない民主主義はすばらしい」と橋下知事が言ったのも、確かに幕末のことを考えたらそれはそうかもしれないですよね。
――確かに登場人物たちの最期はほとんど血塗られています。
木下 前作の『宇喜多の捨て嫁』でもおどろおどろしい表現をかってくださる方もいました。それを意識し、宇喜多では書けなかった形式を色々と試してみたつもりです。山田風太郎さんもそうですし、筒井康隆さんの小説には何をどんな風に書かれるのか全く予測が不能で、そこがすごく面白い。自分もそんな風に読者を楽しませていきたい。ほのぼのとした『三丁目の夕日』に出てくる職人さんの話なんかも、いつか書きたいなあと思っているんですよ(笑)。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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