2015.07.23 インタビューほか

「京都」を主役にした新しい幕末伝に挑む!

「本の話」編集部

『人魚ノ肉』 (木下昌輝 著)

「京都」を主役にした新しい幕末伝に挑む!

昨年、初の単行本『宇喜多の捨て嫁』を上梓した気鋭の作家・木下昌輝さん。同作は第152回直木賞候補となり、東野圭吾さんや高村薫さんに高く評価された。惜しくも受賞は逃したものの、続く高校生直木賞を見事に受賞、歴史時代作家クラブ賞新人賞も満票で射止め、注目の第二作目が本書『人魚ノ肉』である。

『人魚ノ肉』 (木下昌輝 著)

――戦国時代の下剋上を書いた前作から一転、幕末の京都を舞台に選ばれたのは?

木下 作家としてデビューする以前、実際に京都に住んでライターとして育ててもらった経験があるんです。取材を通して京都の様々な文化や京都人の面白さに触れるうちに、祇園祭をはじめとする伝統行事への興味が増してきました。単なる舞台としてだけでなく、京都という土地そのものを主人公にした小説を書いてみたいという気持がありました。もちろん新撰組らが登場する小説は沢山あるんですが、そこにはなぜか市井の人々はあまり登場しない。京都の人にしてみれば、ご近所で人殺しが度々起きるわ、戦乱に巻き込まれて大火事が起きるわで大迷惑だったはずなんですけれどね。

 また、池田屋事件の時に沖田総司が血を吐いたというのは有名な話ですが、実は沖田は吸血鬼で人の血を吸っていたところ、助太刀が入って来てそれを喀血と勘違いをしたんじゃないだろうか、と……総司を化け物にするなんてとんでもない、とファンの方には叱られてしまうかもしれませんが(笑)、モンスターを出すことで京都という文化が引き立つのではないかと考えたんです。新撰組を扱ったものには、司馬遼太郎さんや浅田次郎さんらの素晴らしい作品があります。先達のコピーではなく、全然違う入口でのアプローチを考えるうちに構想が広がっていきました。

――沖田以外にも近藤勇、土方歳三、斎藤一、芹沢鴨、さらに討幕派の坂本竜馬や中岡慎太郎、岡田以蔵らといった有名人物が次々と登場しますね。

木下 高知には人魚の肉を食べた尼が八百歳まで生きたという有名な伝説があるんです。母の故郷が土佐で、僕も夏休みに従弟たちと浜で貝や魚をとって焼いて食べていたんです。お遍路さんが行き来する浜は子供心にとても不思議な場所で、自分たちの食べたものに人魚の肉があっても不思議じゃないかな、と。じゃあ、坂本竜馬や岡田以蔵が、その肉を幕末の京都に持ち込んでいたらと考えて。そこから人魚の血肉が新撰組の手に渡って、その肉を口にした志士たちが次々にモンスターになっていくという話を思いついたんです。ただ、新撰組をモチーフにしている伝奇物は他にもあります。迷いも生じて、なぜか京都の町屋や池田屋の細かな立体模型を作るような回り道もしてしまいました(笑)。

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人魚ノ肉
木下昌輝・著

定価:本体1,550円+税 発売日:2015年07月09日

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