「救済」か「無差別な殺戮」か
アリューシャン列島のラット島も救済の舞台となり、200万ドルの資金を投じてネズミ駆除作戦が敢行されます。しかし、海鳥にとっての「救済」はネズミにとっては「無差別な殺戮」に他なりません。本書では、この駆除作戦の人間本位な性質にもスポットライトをあてます。
熱狂的な動物愛護活動家は、「ある種を『侵入者』と呼ぶ人間はいったい何様だ?」と批判します。「島に群れているのが鳥ならいいけれど、ネズミというのは許せない」というのはあくまで人間の見方です。著者は興味深い実験を紹介しながら、ネズミがいかに賢く、同情心に富む動物であるかを明かしていきます。
それでも、ネズミを駆除しなければ、鳥は絶滅する。鳥のいない、ネズミだらけの島になってしまう。「選択の余地はない」と保全活動家たちはその取り組みを進めていきます。果たして彼らは「1匹もらさず」を成し遂げることができるでしょうか。ネズミに支配された島を、海鳥の楽園に戻すことはできるでしょうか。
著者であるウィリアム・ソウルゼンバーグは野生生物の研究によりニューメキシコ州立大学で修士号を取得し、保全生物学について20年以上にわたり取材を続け、科学雑誌や新聞の記事を書いてきました。本書は2010年に翻訳出版された『捕食者なき世界』(文春文庫)に次ぐ2作目です。
『捕食者なき世界』において著者は、生態系におけるトップ・プレデター(頂点捕食者:捕食ピラミッドの頂点にいる肉食動物)の重要な役割について論じました。トップ・プレデターが消えた生態系は土台から、いえ、てっぺんから崩れていきます。同書には、トップ・プレデターを戻すことで、ぼろぼろになった生態系を復活させようとする人々が登場します。最たるものは米国イエローストーン国立公園へのオオカミの導入で、1995年に始まったその取り組みは、現在、大きな成果を上げており、当初31頭だったオオカミはロッキー山脈北部全体で1000頭以上に数を増やし、自らの帝国を巧みに管理しはじめています。
オオカミの導入、外来生物の駆除、いずれの場合も最大の障害となったのは、そんなことをしても無駄だ、できるはずはない、という周囲の懐疑的な見方でした。無駄か無駄でないか、可能か不可能か、それを決めるのは状況ではなく、状況にどう立ち向かうかであること、そして、人間がしてしまったことは白紙にもどせないけれども、これからできることはまだたくさんあるということを、この2作を通じて教わった気がします。
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日本の頂点捕食者を考える
2014.05.30書評
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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