――『病(やまい)の神様』には、ご自身の病気に関する45のエピソードが収録されています。そもそもご自分の病気について書こうと思われたきっかけは何なのでしょう。
横尾 ぼくは心に関してはいつも自分に問いかけてきたと思うんです。でも、体と会話を交わすことはあんまりなかった。自分の病気のことを書き始めたのは、かれこれ七、八年前のことです。その頃、自分の体に変調を来(きた)し始めたと感じると同時に、老化が始まっているんじゃないかなと思うようにもなった。今まで避けて通ってきた問題を一度真正面から考えてみようと思ったわけです。
展覧会で言えば、大回顧展を開いたような感じでしょうか。今までの作品(病気)が網羅されている会場を見ながら、その時々の作品の前で立ち止まって、反省したり懐かしんだり、今と比較して喜んだり憂えたりしている自分がいるわけです。
――ただ自分の病歴を披露するということは、プライバシーに関わる問題ですね。葛藤や恥ずかしさはなかったのですか。
横尾 それは全くなかったですね。ぼくの場合は、大きな病気をすればするほど、おお病気したぞ! みたいな感じで、仲間に話したり書いたりして客観化してしまうところがあるんです。病気をするとどうしても内向的になってしまう。そうならないために、あえて自分の病気を書くというのは、浄化という意味でも重要な作業だったのではないかと思います。
――エッセイの中では「病気に執着する」とか「病気を愛してしまう」という表現が出てきます。非常に面白い言葉だと感じたのですが、これについて噛み砕いて解説していただけないでしょうか。
横尾 病気を後生大事にしてしまうというか、もう病気は治っているのに、自分の中ではそんなはずがないと思い込んで、病気を取り込んでしまうんですね。お医者さんがいくら治っていると言っても、自分の中で確信が持てない場合は、病気を追い出すことができない。そこからは第二の病気、つまり想像上の病気との闘いですね。「病気を愛してしまう」という逆説的な表現を使いましたが、もう少し突っ込んで言うと、愛することと憎悪することがひとつになって、もつれてしまっている状態だと思うんです。
――ムチ打ちなどは、治っているのに病院に通い続けるというケースも多いようです。
横尾 症状としてはムチ打ちではないのに、「ムチ打ち」という病名があるから自分がムチ打ちだと思ってしまう。病名に無理やり自分の症状を当てはめてしまっているわけですね。
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