田中 関係あるかどうかわかりませんが、『東京少年』と内容が重なる『冬の神話』やいま挙げた『ぼくたちの好きな戦争』は、ちょうど敗戦で作品が終わるんですね。
小林 そうです。
田中 そうすると今回の三部作は、戦前から敗戦と戦後までという時代を通して書いておられるところが、これまでと一番違うんじゃないかと思ったんですね。
小林 ただ難しさもあって、祖父が関係していた沖電気の発生から始まって、最後は現代まで来ると、これはかつて言われてた大河小説ですね。今でも書いてらっしゃる方がいるかと思うけど、一般に読まれにくいんじゃないかと私は思います。
田中 そういう書き方ではありませんね。ただ小林さんの戦前も戦後も現在も自由自在に行き来する書き方で、戦前を否定して戦後を肯定する戦後的な物語が完全に無効になっているところに、実はこの三部作最大のフィクションがあるんじゃないかと思うんです。
小林 なるほど。昭和19年は爆撃が始まったり集団疎開があったりして悪かったけど、それ以前はべつに何にもないんですよ。僕はお小遣いをもらって人形町で映画を観てたし、黒澤明の第1作だとかを観られたわけだから。
田中 それは戦前とか戦後という時代の区切りとは関係ないところで、そういうものが存在していたということなんですね。
小林 関係ないですね。
田中 そうすると、やはりそこに敗戦で時代が変わったという別の軸が強く立っているのが、戦後文学で多く書かれてきたクロニクルとは全く違うところではないでしょうか。
小林 子供だったせいもあって、生活での苦労というのは、そんなにしてないんですよね。嫌なのは空襲と集団疎開だけなんです。あれだけが戦争なんですよ。
田中 なるほど。
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