インタビューほか

『ブルース』をめぐる釧路の風景

「本の話」編集部

『ブルース』 (桜木紫乃 著)

海霧と書いて、じり、と読ませる粒の大きな霧。 今日はジリがでて、いかにも釧路らしい日です、と桜木さんは言う。 師走の最初の日、新刊『ブルース』に登場する釧路の街を歩いた。 『ブルース』は、昭和から平成の釧路を舞台に、“崖の下”の長屋で父親の顔を知らずに育った6本指の少年が、自らを鍛え、故郷の歓楽街の実力者となるまでを、8人の女の語りで描いた短編連作。地方都市のフィクサーとも呼べる人物の過去の時間が1篇ごとに登場し、過酷な少年時代から闇の寵児となっていく姿が、女との係わりの向こうに幻視される気迫の1冊だ。

釧路川に捨てられた指

 釧路川って底が見えないんですよ。何が沈んでいても分からない。満潮になると海から水が上がって行って、干潮になると海へと流れでていく。行ったり来たり。混沌、というのかな。目の前は海だし、出口はありそうなのに、なぜかまた同じところに居る。そういう感じのする川です。

「楽園」では、19歳のとき、博人が切り落とした指がここにある、ということになっています。

 でも、彼にとって切り落としたものってなんだったのだろう。それはほんとうに要らないものだったのかなって。人は要らないものを持って生まれてくることがあるのだろうか――書いている間、書き手としてそういう疑問の答えを探っているようなところがありました。人はどのように変わるのだろうと。変わるってなんだろうということも。

 ちなみに「楽園」に登場する染物屋も、この近くにある設定です。

「鍵」の釧路

「鍵」では、博人と美樹が駅からまっすぐ伸びた大通りを重い荷物を提げて歩いていきます。ふたりが入ったお寿司屋さんは都寿司さん。博人の行きつけの店です。定宿はプリンスのイメージ。彼の宿に通っていた美樹は、釧路川を越えた先の高台あたりの住人です。このあたりは漁業関係の商いをする側だった、街でも古い人たちが住んでいます。漁業に炭鉱、パルプという産業が中心の街ですから、何かしら仕事がある。流れて居つく人が多いのですが、その中で美樹は旧家といっていいような家が並ぶ住宅地の奥さんです。小さい街ではあるんですが、あちらこちら住んでいる人のトーンに違いがあるんですよ。

この歓楽街一帯が、博人のシマ

 買い占めたのは、このあたりです。あれもこれも博人が買収したと(笑)。

「ストレンジャー」で登場するピアノバー「アダージョ」は、店をでて少し行くとすぐ幣舞橋。このあたりでは川に近い地域にある設定です。

 実際の建物は想定していないのですけれど、場所は割合はっきりこのあたりと決めて書いていました。

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ブルース
桜木紫乃・著

定価:本体1,400円+税 発売日:2014年12月05日

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