脇役が映画を生き生きさせる
戌井 映画監督にとって、亀岡みたいな脇役ってどんな存在なんでしょう?
横浜 脇役が良くて映画が生き生きすることは、往々にしてあります。脇役の方って現場に来るとき、どうやって主演を引き立てるかものすごく考えていらっしゃるじゃないですか。
戌井 以前、鈴木晋介さん(『亀岡』にもヤクザの親分役で出演)とご一緒したとき、晋介さんは「これはこういう気持ちで来ているシーンだから、こっちはこんな感じで返すんだ」とか自分の役割を凄まじく考えていらして。プロの脇役が現場の雰囲気を作っているんだなと圧倒されました。本人もそれが楽しい作業なんでしょうね。
横浜 映画全体の中での自分の役割みたいなことを考えていると思います。そこまで徹底してやる方もいますよね。
戌井 その一方で、ただ来て緊張しながらセリフを喋って帰っていく役者もいる。僕がそうかもしれない(笑)。
横浜 その瞬発力がいいと私は思っているんです。自分がいかに立ち振る舞うか考えずに来ちゃう役者さんの方が、爆発的に面白かったりもするので。戌井さんタイプの役者は私は好きです。
戌井 前に長ゼリフを喋るシーンを撮ったことがあったんですけど、ものすごく緊張してNGを連発しちゃいました。早く喋り終わりたくてたまらなかった。
横浜 宇野祥平さんにも亀岡の相方役で出ていただきましたけど、不思議な役者さんです。これまで多くの映画にいろんな役で出てるし、役についてすごく考えて来てくれるんだけど、緊張して……。
戌井 そうそう。だって宇野君、明らかに酔っぱらった方が演技がよくなってるんだもん。あれもお酒飲んでるんですよね。
横浜 はい、飲んでます。でも緊張して目の笑ってない宇野さんがいいんですよ。ものすごく考えているわりには、その緊張に負けてる自分をカメラの前で晒してしまうという。
戌井 宇野君は横浜さんの映画にも結構出てるのにね。
横浜 毎回ちゃんと緊張してくれます。
戌井 こなれた感じでは来ないんですね。こなれて来られても逆に困るでしょうけど(笑)。
横浜 亀岡も自分なりにシナリオを読み込んでいそうですよね。でもそれをひけらかさないところがいい。
戌井 何となくプランは考えていそう。でも気合いを入れて考えても、結局はプラン通りにはいかないタイプ(笑)。
横浜 そうですね。亀岡はプラン通りにはできない。
戌井 僕は今回『亀岡』の現場に行ったとき、事前のプランとかは全然なかったです。怒られないといいなあとか、早く終わらないかなあということばかり考えてました(笑)。やっぱり、何度行っても撮影現場の雰囲気は緊張しますね。
横浜 独特の雰囲気がありますから。戌井さんはやりたい役とかあります?
戌井 いや、特にないです。セリフが多くなくて、ワーッて大きな声出す役だったら何でもいいです(笑)。そういうのだったら大丈夫です。
横浜 そんな役でいいんですか? じゃあまた是非出てください。でも緊張したままで来てくださいね(笑)。
戌井昭人(いぬい・あきと)
1971年東京都生まれ。玉川大学文学部演劇専攻卒業。文学座研究所を経て、97年「鉄割アルバトロスケット」を立ち上げる。2009年「まずいスープ」、11年「ぴんぞろ」、12年「ひっ」で芥川賞候補。13年「すっぽん心中」で同賞候補、14年川端康成賞受賞。同年「どろにやいと」で芥川賞候補。その他の著書に『俳優・亀岡拓次』『松竹梅』など、最新作はシリーズ第2弾『のろい男―俳優・亀岡拓次』。
横浜聡子(よこはま・さとこ)
1978年青森県生まれ。2006年長編1作目となる『ジャーマン+雨』を自主制作。自主制作映画としては、異例の全国公開となる。07年度日本映画監督協会新人賞受賞。08年『ウルトラミラクルラブストーリー』を監督、トロント映画祭他、多くの映画祭で上映された。11年は『真夜中からとびうつれ』&『おばあちゃん女の子』の2作品を発表。13年は前記2作と『りんごのうかの少女』が、レインダンス映画祭の横浜聡子特集で上映された。7年ぶりの長編となる『俳優 亀岡拓次』は16年1月30日(土)よりテアトル新宿他全国ロードショー。
(二〇一五年十一月十日 文藝春秋にて)
撮影:三宅史郎
『俳優 亀岡拓次』
2016年1月30日(土)よりテアトル新宿他全国ロードショー
©2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会