インタビューほか

情けなさの品格――戌井昭人(原作者)×横浜聡子(映画監督)

「別冊文藝春秋」編集部

『俳優・亀岡拓次』 (戌井昭人 著)

パッとしない脇役俳優の愛すべき日常を描いた『俳優・亀岡拓次』がついに映画化! 小説誕生秘話から“情けなさ”の魅力、自らも脇役で出演した原作者と監督だからわかる映画撮影現場の裏話まで、大いに語りつくす。

酒を飲んで演技する安田顕の魅力

戌井 主演の安田顕さんは、亀岡拓次そのものでしたね。

横浜 はい。ただ、安田さんにとっては、かなり過酷な現場だったと思います。

戌井 現場で挨拶に伺ったら、目がほとんど開いていない気だるい感じで「どうも」とぼそぼそおっしゃっていたんです。その日は朝まで撮影だったから、たぶん眠かったんだろうなと思ったんですけど、撮影が終わった後は「おつかれさまでした!」って元気になってた。たぶん酔っ払うシーンだったから、撮影中はずっと酔った役作りをしていたんだろうなと。

横浜 安田さんには、本番でもお酒を相当飲んでもらっていましたから。ちょっと飲ませすぎちゃったかなと思うくらい。

戌井 えっ、安田さん、本当にお酒飲んで演技してたの?

横浜 シーンを撮る前に飲んでいただいて、そのまま本番に入るという感じです。酔った状態でセリフを間違わずに言うのは、相当なプレッシャーだっただろうなと。

戌井 楽屋でお酒を渡すとか?

横浜 待ち時間が長いんで、その間にそば屋に入ってもらったりもして。タバコもガンガン吸ってもらってたので、安田さんは肉体的に相当厳しかったと思うんですよ。でも、それくらいやってこその亀岡拓次だということを理解してくださったんだろうなと。

戌井 安田さんには不思議な魅力がありますよね。

横浜 男っぽいけど女っぽいし、大人っぽいけど子供っぽさもあって、一面的でない。しかもそれを素でやっている。今まで会ったことのないタイプの人でした。安田さんには、ほとんど演出もしていないですし。

戌井 そうなんですか。

横浜 他の映画だったら撮影に入る前にリハーサルをするんですけど、『亀岡』に関しては芝居の練習をしても仕方ないかなと。安田さんと散歩しながら会話するくらいの時間を設けられればと考えていました。

戌井 「安田さんの感じのままで現場に来てください」みたいな?

横浜 そうですね。

戌井 安田さんなら、どんなシーンをやっても下品にならなそうですよね。

横浜 戌井さんにも同じことが言えると思います。小説の中では、目も当てられない出来事がバンバン起きるじゃないですか。それを適切な距離を保って冷静に描いている。そこが戌井さんの品の良さだと思うんです。

 

戌井 ありがとうございます。

横浜 映画化する際にも、その品を失っちゃいけないなと。下品にやったらえらいことになるなと注意していました。でも安田さんの肉体を通して亀岡を演じてもらうと、ちゃんと品格のある情けない人になっていて、胸をなで下ろしました。

戌井 情けなさの品格というと?

横浜 そもそも生きることって不安定なものだと思うんです。亀岡はこの先自分がどうなるかもわかってないし、人生自体がフラフラしているんだけど、その不安定さの中に堂々と飛び込んでいるじゃないですか。それは人間として正しいことだと思うし、そこが格好いいなと。

戌井 それは隙があるってことでもあるんですかね。しかもその隙をあえて埋めないという。取り繕って自分を立派に見せようとすると、品がなくなるじゃないですか。亀岡はあえて防御しないことで、ちょっと品が残るんじゃないかな。それが情けなさにも見えたりするんだけど。

横浜 他人にこう見られたいとか、自分をこう見せようと無理していない。亀岡なりの見栄の張り方とか、処世術みたいなのはあるかもしれないですけど……。

戌井 それがいやらしくならない感じなのかな。

横浜 亀岡がハリウッド映画のオーディションに呼ばれるくだりがあるじゃないですか。彼はハリウッド映画に出ることなんて全く興味がないし、小さい役をやりながら酒が飲めればいいと思っているんだけど、マネージャーに「チャンスだからオーディション受けろ」と言われて結局行くことになる。自分なりのポリシーとかスタイルにこだわらないというか、初めからそんなものが存在しない強さを感じるんです。私が亀岡を好きなところはそこですね。

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