春画とAVの相似点
二村 僕も春画に関する断片的な知識と、自分が現代のAVを商売にしているということくらいで、くわしい歴史的な背景はわからないんですが、春画は当時の絵画制作の最高の技術を使って描かれた、今の我々の言葉でいうところのハードコア作品ですよね。巨大な性器のどアップや男性器と女性器が接合しているリアルなシーンは、フランス絵画など、他の国の美術ではほとんど描かれていない。もしかすると描かれているのかもしれないけど、それぞれの時代の最先端の技法を駆使して表現したセックスシーンというのはあまり残ってないじゃないですか。そういう意味で浮世絵は特異で稀有なものです。
今もそれが残っているということは、その時代の為政者から弾圧、発禁処分を食らいながらも、画家は反骨精神でたくさん描き、民衆は娯楽としてこっそり楽しんでいたということですよね。AVもセックスを本当にしてしまうと違法なものだけど、モザイクをかけてそこがわからない体を装うことによって流通しています。このようなダブルスタンダードで残っているという意味では春画は今のAVと似ているかもしれませんね。
川崎 パロディものの春画が多いということも、興味深かったです。『里見八犬伝』などすごく堅い教育本のパロディも描かれている。そういうものって、現代のAVでもあるんですか?
二村 あります。人気役者さんのそっくりさんものもありますし、テレビに出てた有名芸能人がそのままAVに出演するケースも(笑)。
川崎 この本にも載ってますが、夫が帰宅したら妻が若衆と浮気していて、夫も参戦して3人でやりました、という春画(『若衆遊伽羅之縁』墨摺大本)があるじゃないですか。これを見て「なんてこったい」と思ったんですが、考えてみれば、これもパロディですよね。
二村 パロディというか、コメディですね。みんなこういう絵を見ておもしろがって笑っていたわけですよね。というか、僕は性器の接合部がばっちり描かれているということにも笑いますよ。僕は浮世絵というジャンル自体が絵画というよりは、今のテレビに近いものだったんじゃないかなと思うんです。江戸の庶民は夜になると春画を広げて興奮していたということを考えると、媒体として今のテレビやパソコンと一緒だよね。
川崎 女性も春画を見て楽しんでいたのでしょうか。
二村 江戸時代、男性よりも数が少なかった女性はそれほど性に不自由してなかったかもしれないけど、あまりセックスの機会がなかった年配の女性は見ていたでしょうね。あと上流階級の家の娘が嫁に行く時に母親が新婚の二人の夜の営みのために春画を持たせたということだから、女性も楽しんでいたんだろうと思いますよ。
川崎 おじいちゃんとおばあちゃんの春画(鈴木春信『風流 艶色真似ゑもん』)もありましたよね。別にまぐわっているわけじゃなくて、チューしているだけなんだけど、ちょっと和みました(笑)。
二村 あれは和むね! あと、幽霊とヤッてる絵(歌川豊國『絵本開中鏡』)もあるしね。男はこの骸骨の幽霊が死んだ奥さんか恋人に見えてるんでしょうね。
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