登場人物が動くのを書きとめる
──麻之助、清十郎、吉五郎三人組のうち、吉五郎は唯一お武家さんですね。『まんまこと』では、割合おとなしい役割でしたが、今回意外な面を見せてくれます。
畠中 彼は同心見習いなので今でいえば警察官みたいな仕事です。三人のなかでもとにかく物堅い人物なんですが、今回は予想外の交友関係ができてしまって弱りきってしまうんです(笑)。
──両国の盛り場で遊び人のよからぬ人たちに男惚れされてしまう。愉快な展開でした。
畠中 いったい吉五郎さん、どうなってしまうんだろうって思いますよね。書き進めるうちに、江戸一繁華な両国広小路の顔役の息子・小貞さんが吉五郎さんにすっかり惚れこんでしまったんですよ。
──両国広小路というと、前作で麻之助の遊び場として触れられていましたが、ほかの繁華街と比べて、どのような街だったのでしょうか。
畠中 日本橋は商店が続いているだけですが、両国は川に沿って茶屋に食い物屋、見世物小屋に講釈場、揚弓屋というふうに盛り場になっていて、人々がお楽しみを求めて集ってくる街なんです。
──なるほど。いわば歌舞伎町に渋谷を足したような場所の顔役の息子になつかれるとは、堅物なら難儀ですね。意外な展開ですが……。
畠中 物語も二冊目になると、登場人物たちが自己主張し始めて、この人はこの人が好きなのね。ああ、こっちの人はそこに行きたいんだ。というようなふうに、作者が少し引いたところから人物を見るような感覚が出てきます。ストーリーも登場人物たちもだいぶ自分から動き出していくんです。
──一作目より物語世界が活き活きと自由に動きはじめる。
畠中 ええ。シリーズを書いていく時、一作目は話の展開やキャラクターについて自分でしっかり構成を考えて、書いていきます。そうして物語の世界をひとつひとつ作っていって、それが出来上がってくると、登場人物の皆さんが自分で動くのを眺めていく。私はそれについていって書きとめる感じなんです
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