──二冊目に入って更に“まんまこと”の世界がパワーアップしたんですね。ところで、とてもリーダブルなので、読んでいると現代と地続きのような気分で麻之助たちの世界に入っていってしまいますが、そこかしこに江戸再発見の愉しみがあります。
畠中 物語によっては、江戸の文物や気質といった細かいところから、逆に話をつくっていくこともあります。たとえば、「清十郎の問い」に登場する献残屋(けんざんや)という商売は、贈答品などでいらないものを持っていくとお金に換えてくれるんですけれど、現代ではぴったりあてはまる職業はないんです。こういう仕事が成り立つくらい江戸時代には武士の間で贈答の習慣が一般に普及していたんですね。珍しくて面白い、江戸独特の商売ではないかと思います。
──質屋とも違うし……多少近いとすると金券ショップでしょうか。
畠中 品物が買い取りOKで、尚且(なおか)つ売買は官僚が対象というふうになれば、ですね。
──そんな商売があるということは、当時の武家はお付き合いがなにかと大変だったのでしょうね。
畠中 武士はお金はないけれど、何かとお金が必要になる仕組みになっていたようです。贈り物も階級や場合に応じて品物が決まってきますし……。大変といえば、どんなに家計が苦しくても、武家の奥さまは外出するときは一人ではなく、伴を連れていなければいけないというようなこともあったようです。
──他に当時の風俗を彷彿とさせて印象的なのが、交通手段です。麻之助たちが出かけるとき、舟で移動するという記述が何度か登場しますが、今の東京と違って、舟はさほど特別な乗り物ではなかった。
畠中 古地図を見ると運河、水路、堀が張り巡らされています。駕籠(かご)が贅沢だったので、舟をよく使っていたんですね。今でいうタクシーを江戸で考えると、舟であって駕籠じゃありません。町人だと駕籠に乗ることは少なかったんじゃないでしょうか。
──江戸の日常生活で単純な疑問のわりに具体的な資料に乏しい、というような難問に当たることはありますか?
畠中 そういえば、町木戸が閉まったあとの夜鳴蕎麦(そば)が不思議でした。お蕎麦屋さんが自由に動き回れるのもそうですが、お客さんはどうやって出てくるのだろうと。いろいろ考えて、悩んだことがあります。通り抜けできるところがあったのか。資料で調べても微妙にそういうところは書いていないんです。
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