マキタ 僕も上昇志向はそれなりに強いと思うんです。今のポジションには全然満足できていないし、もっと何かやってやろうと思っています。ただ、比べるべくもないのですが、僕は真理子先輩とだいぶ違っていて、全く本を読まない子どもだったんです。真理子先輩のように実家が書店なんて、どれだけ恵まれていたんだろうと思います。
林 そんなことないよ。山梨の人ってマウンティングしたがるので、商売をやってる家の子って必ず周りから何か言われるんだよね。恩着せがましく「おまえんちで買ってやった」とか。だから、みんなに愛想よくしないといけなくて、サラリーマンとか農家のお家の友達がうらやましかった。今でも私は、待ってるタクシーでワンメーターって申し訳なくて乗れないんですけど、公務員の息子だった夫は「別にそういうことだってあるんだから、しょうがないだろ」って言いますよ。
マキタ 僕の実家もスポーツ用品店を経営していたので、気持ちは良く分かります。その両親も既に亡くなっているのですが、真理子先輩のお母さまは百歳を超えた今もご健在で、すごい女性ですよね。教養が高くて、山梨高等女学校を優秀な成績で卒業された後、東京の女子専門学校に進学されている。文学などに対する教養が全然違うと思います。
林 でも、うちの母親はずっと「お父さんのおかげでこんな貧乏させられて」って愚痴を言っていたんですよ。自分も東京で暮らしていたのに、戦争のせいで山梨に戻ってきて、父親が戻ってきたのも終戦から八年後だった。その後、四十歳を過ぎて子どもを二人も産んだのに、父親は全然生活能力がなくて競馬をしたりダラダラしているだけ。だから仕方なく、自分の古本を売って実家の隣の貸家を借りて、小さい本屋を始めたんです。
マキタ 実は、僕はその林書店で、何度か立ち読みをしていました(笑)。『女性自身』など雑誌を読みたかったのですが、林さんのお母さんは立ち読みするお客に厳しいことで有名で、警戒していました。
林 母親は怖いおばさんで有名だったのですが(笑)、私は山梨では本当に知られていないんですよ。この前、いとこと地元のデパートに行ったら華道家の假屋崎省吾さんがトークショーをしていたの。それで「假屋崎さんに会いたいじゃんね」っていとこも言うし、私もいい顔をしたいから、受付の人に「すいません、知り合いなんだけど会わせていただける?」って言ったら、「駄目です」って言うの。化粧もせずに、汚い恰好だった私も悪いんだけどさ。東京だったらもう少し親切にしてくれるのに。
写真◎原田達夫
後編へ続く
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