これほど破天荒な人生相談の回答者は、前代未聞なのではないか。
キヨスクで雑誌を立ち読みする。おごってもらう時は一番高いコースを頼む……主人公・中島ハルコ52歳は、傍若無人で厚かましい、実にとんでもないおばちゃんなのである。
物語はパリから始まる。フードライターのいづみは、超高級ホテルのロビーで、日本人の中年女性に呼びとめられる。ホテルの朝食が高すぎる、もっと安いところへ連れていけと言うのだ。
唖然としながら初対面の彼女とカフェで朝食を共にすることになったいづみは、この傍若無人な女社長に、いつしか自分の恋の悩みを打ち明けていた。十年間不倫の関係を続けた男に、三百万を貸してしまったのである。
話を聞いた中島ハルコの第一声は、意外なものだった……。
「今までの身の上相談の答えって『努力しろ、頑張れ』か『あきらめろ』のどちらかだったと思うんです。でも、ハルコの答えはどちらでもない」
ハルコのアドバイスに従って、いづみがどういう手段に出たのか、それは本作をお読み頂きたい。意表をつきながらもしごくまっとうな考え方で、彼女は男女の、親子のもつれた関係を痛快なまでに暴き出し、解きほぐしていくのである。
アフォリズム(警句)を使わせれば当代右に出る者がない林さんだが、この小説は特に、メモしたくなるほどの格言・金言のオンパレードである。妻と愛人との三角関係に悩む会社社長には、
「大貫、愛人がね、こっちの懐を考え出してケチになったら要注意よ。自分の取り分をちゃんと考え始めてんの。ふつう愛人っていうのはそうじゃない。短期決戦と思ってるから、いろいろ金を遣わせる。だけどね、将来をちゃんと考えてる女は怖いわよねえ」
夫の愚痴をこぼす幼馴染に対しては、
「人はだれだって人生のオトシマエをつけなきゃいけない時がくるのよ。私みたいに一人で生きてきた者には孤独ってやつ、あんたみたいな専業主婦には停年のダンナを負わなきゃいけない時がくるの」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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