- 2016.02.22
- 書評
現役キャスターが書く報道小説『初読のときも泣いたけれど再読してまた泣いた』
文:北上 次郎 (文芸評論家)
『記者の報い』 (松原耕二 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
この稿の始めに、本筋とは関係ない飼い犬の話を紹介したのは、本書が小説としてまず優れていることを紹介したかったからなのだが、そろそろ本筋の紹介に移りたい。主人公の岡村俊平は首都テレビのエース記者。本格的なインタビュー番組を立ち上げて、数々のヒットを飛ばすも、ある事件をきっかけに番組をおろされる。娘の死、妻との確執(これは彼の浮気が原因だが)、起死回生のインタビューの不発――不遇のどん底でまわってきた最後の大勝負は、総理大臣藤堂一郎のインタビュー。藤堂とは因縁があるが、それがどんな因縁なのかはあえてここに紹介しないでおく。
そうか、構成のうまさも指摘しておいたほうがいい。岡村俊平と藤堂一郎が初めて会ったときのことが、物語の半分を過ぎたところでようやく語られる。藤堂は政治家の秘書を経て二年前に当選したばかりの新人議員のころで、党の重鎮に連れられて会食に現れる。岡村は、酒席には出来るだけ若手を連れていくという方針の政治部長に声をかけられただけ。ともに三十歳。ふたりとも幼い娘がいるとの共通点があり、会食が終わってから二人で飲みにいく。それから家族ぐるみの付き合いが始まったのはもっと前に描かれているが、最初の出会いがここでようやく描かれる。こういう構成がうまい。
本書のモチーフは、インタビューとは何かだ。物語はこの一点に向かってどんどん突き進んでいく。さまざまな登場人物、道具立て、挿話――そのすべてがこの一点のためにある。テレビの生放送のインタビューはあとで編集できないので怖いということ。しかし同時に、テレビの生放送にしか出来ないこともあるので魅力的なこと。そう思いながら、圧巻のラストに物語は入り込んでいく。
私は泣き虫だ。だから話を半分に受け取ってもらってもいい。泣いたからといって、そんなことは小説の評価とは何の関係もない、と言ってくれてもいい。その通りだからだ。だから、これは評価とは関係がない。ただ、事実だけを書く。初読のときも泣いたけれど今回再読してまた泣いた。それがとても気持ちのいい涙であったことを、私はここに書くだけだ。
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