安部龍太郎さんが『等伯』で直木賞を受賞するまでの道のりと今回の「文春文庫 秋の100冊フェア2015」で取り上げている直木賞受賞作4作のご紹介です。
安部龍太郎さんが『等伯』で直木賞を受賞したのは、2013年1月。デビューから24年、初めて候補に選ばれてからも、19年という歳月が流れていた。
長い道のりだと思う。凡人ならば、諦め、挫けるところだ。安部さん自身、賞の対象からは外されたのだろうと思っていたというが、それでも書き続けてきたのは、「小説を書く以外にやりたいことがないから」だった。
そんな中で出会ったのが、長谷川等伯だ。
等伯は、故郷の能登・七尾から上洛したのが33歳と遅かった。そして五十過ぎまで世間に認められることもなく、不遇を耐え抜いてきた。作家になりたいと徒手空拳で田舎から上京し、背水の陣を敷かなければダメだと、周囲の反対を押し切って公務員を辞め、そして社会的に評価されることがなくても、志と情熱を持って書き続けた自分と重なる。
「等伯は私である、と言っても半分は当たっていると思います」
これまで多くの戦国時代小説を書いてきた安部さんだが、武将などとは違い、画家は、その作品を実際に目にすることができる。虚心坦懐に絵と向き合い、対話することで、等伯その人を知ることができた。
等伯が上洛したのは33歳。安部さんが文壇デビューを果たした年齢と同じだ。そして安部さんが『等伯』を書いたのが、57歳。奇しくも同じ歳、等伯は代表作である「松林図屏風」を描いた。
「等伯が僕を選んで書かせたのかな、という気がしています」
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