──『世襲議員のからくり』は、政治の劣化と二世議員激増の関係に焦点を絞った新書ですが、上杉さんがこの問題に最初に気付いたのは、いつ頃ですか?
上杉 安倍政権の一年間を追った『官邸崩壊』を取材中のことです。当時、安倍晋三首相の周辺には、「チーム安倍」と呼ばれる側近集団がいました。政権発足前後から首相のブレーンのような存在でしたが、いずれも世襲議員が多かったんです。名前を挙げれば、塩崎恭久さん、石原伸晃さん、世耕弘成さんといった人たちで、安倍さんも含めて勉強会などをよくやっていました。
僕自身、一番接する機会が多い世代なのですが、「純粋でいい人たちだけれど、少し心もとないな」と思うことがあったんです。
──どんなことですか?
上杉 たとえば選挙のときですね。「負けてもいいから、メディアや駅頭で正しい政策を訴え続けた方がいい。戸別訪問よりもそちらを重要視すれば、国民は必ず理解してくれるんだ」という趣旨のことを、彼らは言うんです。
対立候補もそうしてくれればいいですが、もし相手が陳情を受け、戸別訪問どころか後援会でがんじがらめに有権者を縛って、公共事業の箇所付けで脅しながら票をカスってくるとしたらどうするのか。自分たちも同じようにやるべきだとは思いませんが、相手はそういうことをやるかもしれない、と認識しながら戦った方がいいに決っています。
──安倍元首相本人にもそういう傾向があった、ということですね。
上杉 理想論に走り過ぎるんですよね。それが明確に出たのが最初の組閣時です。的場順三・元大和総研理事長を官房副長官に抜擢(ばってき)しました。しかし、官僚の最高ポストにいきなり外部から民間人を登用したらどうなるか。官僚機構が官房副長官への情報を干すに決まっている、ということに思いが至らないんです。結局、善意の人たちだから、人が悪意を持ったときの動きを予測できないんですね。
これは、デイヴィッド・ハルバースタムがケネディのブレーンを書いた『ベスト&ブライテスト』のテーマにも通じるかもしれません。マクジョージ・バンディやロバート・マクナマラなど綺羅星の如きエリートたちを集めたのに、ケネディ政権は泥沼のベトナム戦争へ突入していきますよね。安倍さんの頭の中には、「自分が考え得る最高の人材を集めた」という思いがあったでしょうが、政治はそれだけでは動かないんです。
安倍政権の動きを間近で見ながら、国民全員が自分たちと同じような大卒のエリートではないのに、それを前提に政治を行なおうとするから失敗するんじゃないか、と思ったとき、一つの大きな要素として「二世議員の問題」が浮かび上がってきたんです。
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