- 2009.06.20
- 書評
日米大搾取のパラレル
文:湯浅 誠 (「反貧困ネットワーク」事務局長)
『大搾取!』 (スティーブン・グリーンハウス 著/湯浅誠 解説/曽田和子 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
そして、労働組合。「労働組合は、アメリカにあるほかのどんな組織や制度より、低賃金労働者の生活を向上させ、不平等を減らすために貢献している」という著者は、一方で多くの労働組合の「腐敗や、多額の報酬を得る幹部や、型にはまった官僚主義や、活力不足や、先見性のなさ」を批判しつつ、それでも労働組合の労働条件を改善する力に期待をかける。ラスベガスで働く労働者の組織化や技能訓練に成功した労働組合キュリナリーワーカーズ第二二六支部、清掃労働者の大規模な組織化に成功した労働組合SEIUの諸実践は、労働組合が労働者の希望であり得る可能性を示している。
声を上げるしかない
結局、実態から展望へと話がここに至っても、日本とアメリカの決定的な違いを見出すことは難しい。私たちにもまた、日本型雇用と言われるものがあり、そしてまた現時点でもその日本型「ハッピーワーカー・モデル」を堅持しようとしている会社が多数ある。そして労働組合も、たしかにアメリカと同等またはそれ以上に力と労働者の信頼を失ってしまったかもしれないが、しかし個人加盟労組(「ユニオン」)などが中心となって、未組織の非正規労働者をもステークホルダー(利害関係者)とした社会的労働運動(ソーシャル・ユニオニズム)を展開している。その成果が、二〇〇八年に大企業グッドウィルを廃業に追い込んだ「データ装備費」といった「保険」名目の半強制的な管理費二重どりや、派遣先からさらにトラックの荷台で他社へと派遣していた「二重派遣」問題への抗議であり、そして同年末の「年越し派遣村」だった。こうした取組みを通じて、非正規労働者の組織化が着実に実を結んでいくことができるならば、労働組合運動の再生も夢ではないだろう。「その産業界の(未組織)労働者を組織化できないということは、しばしば組合員の賃金や福利厚生も低く抑えられる結果になる」ことは、もはや明らかなのだから。
本書に登場してくる人々は、悲惨な労働実態の実例であると同時に、抵抗の契機の実例でもある。「工場はフロアで働いている人間をまるで奴隷のように扱っている。泥のように扱われいじめられていると、女性たちがみんなでぶつぶつ言うのは、もう聞き飽きた。うんざりでした」と声を上げ始めたキャシー。「僕らはただ家族をちゃんと養いたいだけなんですよ」と初めてのストライキを敢行したチャック。「なんだかばかばかしくなっちゃって。もう不安も恐怖も吹っ飛んでいました」と労働局への告発に踏み切ったフリア。「あの男が私の就労時間をちょろまかそうとするということは、私のポケットからお金を盗もうとするということです」と上司の違法行為の証拠探しを始めたドルー。
私たちの周りにも無数のキャシーやチャックがいる。企業が労働者に何かを提供していたとき、労働者はそれを失うのが怖くて、なかなか声を上げられないでいた。しかし、企業がますます労働者に何も提供しなくなり、それどころか搾り取り(大搾取!)始めている現在、人々は徐々に声を上げ始めるだろう。もう失うものなどないからだ。その人たちが労働者としての尊厳を取り戻すプロセスは、そのまま、私たちの社会が、社会としての尊厳を回復するプロセスでもある。
日々のニュース、職場や工場でのぼやき、つぶやきに関心を寄せよう。それが人々の存在と行動に対する尊重へとつながっていく。
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