- 2009.06.20
- 書評
日米大搾取のパラレル
文:湯浅 誠 (「反貧困ネットワーク」事務局長)
『大搾取!』 (スティーブン・グリーンハウス 著/湯浅誠 解説/曽田和子 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
職場に施錠されて働く労働者、泥棒を捕まえた怪我でクビになる警備員、セクハラ狂言訴訟で組合潰し。「コスト削減至上主義」で労働者を搾取する――超大国アメリカの実態を告発するスティーブン・グリーンハウス著『大搾取!』。それが決して太平洋の向こうの話ではないことを、「反貧困ネットワーク」事務局長・湯浅 誠氏が日本人の視点から解説する。
「見えないことが無視につながり、逆に、関心は尊重につながる」
労働問題について考えるとき、最近私はよく環境問題に対するまなざしの変遷を思い出す。
ちょっと前まで、CO2排出規制などする必要もないし、できるわけもないと思われていた。各国・各企業はグローバル経済競争にさらされている以上、そんな悠長なことを言っていたら生き残れない。そもそも地球温暖化の危機という話それ自体の信憑性(しんぴょうせい)がない――そう言われていた。しかし今、各国は国際協調によるCO2排出規制に取り組んでおり、テレビをつければ「エコ」の大合唱で、各国政府もグリーン・ニューディール、緑のエネルギー革命とエネルギー転換を謳(うた)い始めている。「エコ」に関する設備投資は、コストから必要経費への転換を遂げつつある。
労働に関して同じことが起こるのは、いつの日だろうか。グローバル経済競争にさらされている以上、生活できる賃金など確保できるはずもないし、する必要もない。低賃金も、細切れの不安定雇用も、働いても食べていけないワーキング・プア状態も、企業の社会保障負担削減も、挙句(あげく)の果てにはホームレス化も自殺も餓死も仕方がないものとし、さすがに仕方がないとおおっぴらに言えないときは「本人さえしっかりしていれば、そんなことにはならなかったんだ」と自己責任論によって問題をすり替え、そして原因を糊塗(こと)する――ちょっと前の地球温暖化問題とまったく同じ言論・社会状況を打破して、人間への投資が、コストから必要経費への転換を遂げる日は、いつ来るのだろうか。
著者スティーブン・グリーンハウスはその日を、冒頭に続く一節で次のように夢想する。「ホワイトハウスで職場の安全についての会議が開かれ、そこにテレビカメラが入って、身体障害者になったり死亡したりした労働者の悲惨な話が紹介されたとしたら、どうだろう。大統領と労働長官が、最低賃金違反で被害をこうむった労働者たちを交えて会議を開き、賃金問題について話し合ったとしたら、どうだろう」。経営と労働が社会・政治の中で同じ比重をもって語られ、経営者の成功が労働者の尊重とセットで評価され、人間への投資が株価を上げる日――それは、永遠に来ないような気もするし、案外あっさりと訪れるような気もする。その点で、著者の次の言葉は、私が現在の日本に感じているものでもある。「今日の景気低迷にわずかでも希望の光が見いだせるとするなら、それはこの国が、膨大な数の労働者がいかにひどい状態に置かれているかに、今ようやく目を向けつつあるということだ」。
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