- 2016.10.24
- インタビュー・対談
不惑をむかえた探検家が、非日常と日常の狭間で描く珠玉のエッセイ
「Number」編集部
『探検家、40歳の事情』 (角幡唯介 著)
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#随筆・エッセイ
結婚し、子どもをもうけたことで、「冒険行為のモチベーションが下がるのではないか」と恐れもした著者は、いまもなお家族を置いて旅に出る。そこで生まれるエピソードは時にシリアスだが我々は笑いを堪えきれない。不惑になっておきた変化を味方に付けて、思い切り探検と執筆活動を続ける動機とは?
――前作『探検家、36歳の憂鬱』から4年。今作『探検家、40歳の事情』はどういった違いがありますか。
角幡 やはり、プライベートの環境が変わったことでしょうか。前作は、34~35歳という、まだ自分が結婚するとは思っていない青年期に書いたものです。その後、結婚して子どもができたことで、自分の活動に当然影響があったわけです。まず本を読む時間が少なくなったとか、精神的にもだいぶ変化がありました。以前は、探検に行くにあたり、生や死を強く意識していましたが、今はそれ程考えなくなりました。環境の変化は、行動だけでなく著作物にも影響してくると思うんです。
――自分が変わることは楽しみでしたか。
角幡 自分自身は変わらないと思っていたので、怖いとか楽しむということはありませんでした。でも何年か経って、例えば、『36歳』を文庫化するために読み直した時、今自分が考えていることと違うなと思ったりするわけです。そういうことが繰り返しあると、自分は変わったんだなとあらためて気付く。最近はそれにも慣れましたが、最初は嫌でしたね。ものが書けなくなるんじゃないかと思ったんです。昔程、自分の活動に対して切迫感がなくなっているんじゃないか、冒険行為についてのモチベーションが下がっているんじゃないかとか。ヒリヒリするような感覚、自分が何のために生きているのかという渇望感が減っているかと思うと……。
でも最近は、それはそれでもいいか、という感じです。実際、モチベーションが落ちているわけでもありませんし、探検活動に対して求めるものも変わってきているので。
――今は何を求めているのですか?
角幡 昔みたいに生とか死とかいうよりも純粋に未知の環境に行ってみたいというモチベーションの方が強いかな。より危険であればあるほど冒険行動としての価値が高いという考え方は、昔はありましたが、今はなくなりました。今は、とにかく僕らの住んでいるシステムの外側にどうやって出るか、それを考えています。それをやるにはどうしたらいいか。現在の大きなテーマである極夜の旅なんかはそれに基づいています。それ以外にも日本の登山でも、登山の新しい部分をどういう行動をしたら提示できるかと考えてやっています。
――以前は、いつも冒険から帰ってくると「もう一歩先があったのではないか、それを見たくなる」とおっしゃっていましたが。
角幡 そうですね。そういうのは求めなくなりました。結果的にやっていることは同じなので、全体的に安全なことをやるようになったかといったらそうではない。慎重になる場面というのは当然出てきていますが、自分の中での意味付けが変わっているような気がします。僕の場合は最終的に本にしたいというのがある。自分の世界観を本という形で提示する。そのための行動なわけです。本を書くというのは探検の大きなモチベ―ションになっています。
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