- 2016.10.24
- インタビュー・対談
不惑をむかえた探検家が、非日常と日常の狭間で描く珠玉のエッセイ
「Number」編集部
『探検家、40歳の事情』 (角幡唯介 著)
ジャンル :
#随筆・エッセイ
――さて、今回の本は「不惑」というタイトルのエッセイから始まっています。不惑をむかえて何か変わったことはありますか。
角幡 40歳になって……変わりましたね。この中にも書いていますが、人生が固まって行くという感じです。30代の時には、人生の選択肢がいろいろあるけれど、今はそんなにないと思うんです。作家として活動できているし、僕の場合、新しい探検をして本を出すまでに2~3年はかかる。やりたいことのいくつかをやっているだけで、50、60になる。人生はそう進んで行くんだなと。30代はそれを形作るための時期。僕の場合は32歳で会社を辞めて、2年後に賞をもらって本を書けるようになったんですが、その前はホームレスになっちゃうんじゃないかというくらい混沌としていた時期もありました。今はそういう混沌としたものもなく、ある程度は先が見えちゃっている。それが大きいかな。
――そんな40代はどうですか。
角幡 30代のほうが面白かったですよ(笑)。成熟し、しっかりとした活動ができるようになりましたが、一方それは寂しいですね、昔みたいにどっちに転ぶか分からないというのがないというのは。「不惑」はきっと、同世代の男性からは共感してもらえる内容だと思います。
――今作にはどんな色付けがあるのでしょう。
角幡 今回は、肩の力を抜いた、探検中のこぼれ話みたいなものを書きたかったんです。
――奥様が登場するエッセイも3作と、多いですが、奥様は今でも、角幡さんの作品を一番に読む、特別なファンですか。
角幡 もう全然読みませんよ。だから何を書いても平気(笑)。
――その中で「人間とイヌ」はこぼれ話の枠を超えた、いろいろと考えさせられる作品でした。
角幡 『アグルーカの行方』(集英社)や『太陽は昇らない』(「オール讀物」に掲載)など、北極をテーマにしたノンフィクションで書けなかったことも、この本に入れたかったんです。
グリーンランドのシオラパルクに初めて行った時、そりのための大量な犬を見て、「なんかすげーところに来たな」と直感的に思いました。僕らがペットとして犬を飼うのとは違う、イヌイットと犬の関係。その付き合いは表面的には残酷に見えるところもあるかもしれないけど、その向こうにあるものを見据えた時、彼らの生き方がある、と思ったんです。その深い結びつきを書きたかった。
――角幡さん自身も、この表紙に描かれている犬のウヤミリックと一緒に、今年もまた冬の北極を旅するんですよね。
角幡 この犬と一緒に旅をしようかなと思ったのは、一つの生命と盟約を結んで旅をすることに憧れていたからです。人間と犬の歴史、原始的なつながりを追体験したくて。2010年の暮れ、『空白の五マイル』(集英社)の旅先だったツアンポーから帰って来て、次は極夜に行きたい、その時は犬と旅したいと思ったんです。ひたすら何もないところを犬と歩いてみたいと。それからずいぶん時間がかかってしまいました。
――また4年後のエッセイを、角幡さんの変化とともに楽しみにしています。
角幡 何も変わらないと思いますよ。また新たなテーマで北極に行こうと思っているんです。
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