ジジさん、ババさんの小説
――芸術院会員選挙を戦う室生晃人のフィクサーの役割をする殿村という画廊経営者が興味深い存在です。
黒川 こういうフィクサーは実際にいますよ。彼の視点を入れたことで、話がすごく広がりました。
――たくさん絵描きの名前が出てきますけど、気を遣われたところなどはありますか。
黒川 名前が実在の人物に一致しないことですかね。美術年鑑を買って、確認して書きました。いろいろな人をモデルに複合して書いていますが、わかる人にはわかるかもしれません。まあ、モデル小説そのものを書いているわけではないし、読者がモデルを想像するのはいいんですけど。
――黒川さんの作品で、これほど女性が出てくるのは珍しいですね。室生の競争相手、稲山健児の孫娘の梨江をはじめ、室生の弟子の大村の愛人たち……。
黒川 女性を描くのは、もともと下手だという意識があるけど(笑)。基本的にはジジさん、ババさんの小説ですよ。
――大村もまだ若く感じますが、実際は……。
黒川 もう四十七ですから。前に書いた『国境』もわりとジジさんの小説ですが、これはもっとジジさんの小説(笑)。
――政治家も含めてですよね。そう考えると、政界と画壇は似ているんですね。
黒川 本当によく似てる。五十なんかバリバリの若手。六十でやっと中堅。そういう意味では、やっぱり、自分が年をとったからですね。若いときはこんなのよう書きませんわ。
――やはり、先ほどもおっしゃったように、時間が経ち、蓄積もあって、書けたと言えるのかもしれませんね。
黒川 年寄りを奮い立たすのは何かというのは考えましたね。明日死ぬかもしれないひとが何をモチベーションとして動くんかな、と。明日がない、今日さえ充実したらええいうのを表現したかったです。この中で、本当の主人公は殿村でしょ。殿村といういったん隠居した八十二の老人が、もういっぺん表に出て、芸術院賞を受賞した絵描きを手足のように動かす。蒼い煌き(きらめ)、と(笑)。
――タイトルにつながるわけですね。室生もあれだけの欲望丸出しの人間ですが、若い頃苦労したという背景もあって、何となく憎めないキャラクターですよね。
黒川 そうですか。そういう意識はなかったけど、途中で、この男のために最後のステップを踏ませてやりたいな、と、ふと思うところが地の文章に出てきました。あれは本当の気持ちです。
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